assorted links;NGDP目標(その2)+α
*NGDP目標(NGDP目標リンク集(その1)はこちら)
●Jeffrey Frankel, “Nominal GDP Targeting is Left, Right?”(Jeff Frankels Weblog, May 2, 2013)
●Nick Rowe, “Raising expectations of inflation vs raising expectations of NGDP growth”(Worthwhile Canadian Initiative, June 25, 2013)
●Yichuan Wang, “Why Nominal GDP Targeting Solves the Credibility Problem”(Synthenomics, June 30, 2013)
●Tomáš Sivák, “Inflation targeting vs. nominal GDP targeting(pdf)”(Biatec(Journal of National Bank of Slovakia), March 2013)
●Kevin D. Sheedy, “Debt and Incomplete Financial Markets: A Case for Nominal GDP Targeting(pdf)”(Econbrowser経由)
*大恐慌本
●Nicholas Crafts and Peter Fearon (編集) 『The Great Depression of the 1930s: Lessons for Today』(Oxford University Press, 2013/5/5;The Enlightened Economist経由)
Understanding the Great Depression has never been more relevant than in today's economic crisis. This edited collection provides an authoritative introduction to the Great Depression as it affected the advanced countries in the 1930s. The contributions are by acknowledged experts in the field and cover in detail the experiences of Britain, Germany, and, the United States, while also seeing the depression as an international disaster. The crisis entailed the collapse of the international monetary system, sovereign default, and banking crises in many countries in the context of the most severe downturn in western economic history. The responses included protectionism, regulation, fiscal and monetary stimulus, and the New Deal. The relevance to current problems facing Europe and the United States is apparent.

The Great Depression of the 1930s: Lessons for Today
- 作者: Nicholas Crafts,Peter Fearon
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr
- 発売日: 2013/05/05
- メディア: ハードカバー
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*数量制約一般均衡理論(不均衡マクロ)の歴史的展望
●Roger Backhouse and Mauro Boianovsky(著)『Transforming Modern Macroeconomics: Exploring Disequilibrium Microfoundations, 1956-2003 (Historical Perspectives on Modern Economics)』(Cambridge University Press, 2012/11/12)
This book tells the story of the search for disequilibrium micro-foundations for macroeconomic theory, from the disequilibrium theories of Patinkin, Clower, and Leijonhufvud to recent dynamic stochastic general equilibrium models with imperfect competition. Placing this search against the background of wider developments in macroeconomics, the authors contend that this was never a single research program, but involved economists with very different aims who developed the basic ideas about quantity constraints, spillover effects, and coordination failures in different ways. The authors contrast this with the equilibrium, market-clearing approach of Phelps and Lucas, arguing that equilibrium theories simply assumed away the problems that had motivated the disequilibrium literature. Although market-clearing models came to dominate macroeconomics, disequilibrium theories never went away and continue to exert an important influence on the subject. Although this book focuses on one strand in modern macroeconomics, it is crucial to understanding the origins of modern macroeconomic theory.

- 作者: Professor Roger E. Backhouse,Professor Mauro Boianovsky
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2012/11/12
- メディア: ハードカバー
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賃金にまつわるパラドックス
●Scott Sumner, “The wage paradox”(TheMoneyIllusion, March 15, 2013)
賃金の下落は労働市場が均衡から外れている(不均衡状態に置かれている)ことを示唆するサインであり、それゆえ問題が発生している証拠であると言える。一方で、賃金の下落は労働市場が再び均衡に復する(労働市場における不均衡を解消する)助けとなると考えられる。そういった意味では、賃金の下落は問題の解決を促す役割を担っていると言える。
このどちらの主張もともに弁護可能である。私が思うに、景気循環について具体的なイメージを掴むためにはこの2つの主張を同時に念頭に置いておくことが最善の方法だと言えるだろう。次の文章はつい最近のエコノミスト誌の記事からの引用である。
実のところ、安倍首相による(15年にわたるデフレからの脱却を目指す)キャンペーンは政治的な意味合いを備えている可能性が強い、との指摘もある。金融緩和に前向きな人物(tough-talking money-printers)を日本銀行の総裁・副総裁に新たに任命することで、安倍首相は「中央銀行は2%のインフレ目標を達成すべきだ」との決意を露わにした。問題は、物価が上昇する一方で名目賃金が上昇しなければ、労働者は経済的に苦しい生活を余儀なくされることになる、ということである。安倍首相は衆参両院で自民党が多数派を占めることを目指しているが、仮に名目賃金の上昇が物価の上昇に遅れをとれば、7月に行われる参院選挙で自民党は不利な状況に置かれることになるだろう。
そういった事情もあってか、つい先日、安倍首相と麻生太郎財務大臣は大企業に対して賃金の引き上げを要請した。消費者マインドと家計消費が盛り上がりの兆しを見せる中、この要請に前向きに応じる企業も現れた。例えば、コンビニ大手のローソンは、今年度のボーナスを増額することで社員(具体的には、学校に通う子供を3人持つ社員)の年収を平均15万円引き上げる意向を示した。また、円安による恩恵を受けた輸出業者の中には今年度の春闘で労働組合の要求を受け入れてボーナスの増額に動く企業が出てくる可能性もある。
しかし、これまでのところ経団連−主要な大企業から構成されているロビー団体−は安倍首相らの賃上げ要請に冷やかな態度を見せている。持続的な業績の改善が見通せるようになるまでは基本給の引き上げ(ベースアップ)−ボーナスの増額と比べるとベースアップを実施するのは困難だとされている−に踏み切ることはできない、というのである。JPモルガン証券のシニアエコノミストである足立正道氏はこう語る。「基本給の引き上げよりも先に残業代とボーナスが増額される可能性が高いと思われます。また、各企業が持続的な賃上げに向かう上では、インフレ期待が高まるよりも成長期待*1が高まる必要があるでしょう。」 しかしながら、日本では来年度に消費税の増税が予定されている。仮に予定通りに消費税が引き上げられることになれば、今年度実施される大規模な財政刺激策の効果の幾分かが打ち消され、そのために2014年の後半に入って経済が減速する可能性がある。
最後に引用したグラフは極めて興味深いものである。このグラフによると、名目賃金の下方屈折が生じている3つの局面を読み取ることができる。それは、アジア通貨危機が発生した1997年、ITバブルの崩壊を受けての2001年の景気後退期、そして2008年〜2009年の世界同時不況期である。名目賃金は粘着的であり、毎月ごとに調整がなされるのは一部の賃金だけである。それゆえ、全体として名目賃金が低下しているということは、賃金の調整が進む部門以外においては名目賃金は高すぎることを意味することになる。そのため(名目賃金の調整がなかなか進まない部門が存在するために)、全体として名目賃金が低下する際にはしばしば失業の増加が伴うことがあるが、これはまさしく日本で生じている状況そのものだと考えられる。名目賃金の調整が完了した暁には現実の失業率は自然失業率に等しい水準に落ち着く(復する)ことになると考えられるものの、名目賃金の(絶対水準の)カットには困難が伴う。おそらく日本でも(名目賃金のカットに対する抵抗もあって)名目賃金の調整はまだ完了しておらず、それゆえ日本の失業率は依然として自然失業率を若干上回っていると考えられるだろう(日本の失業率は元々極めて低いという点には注意が必要である。また、日本の真の失業率はデータ上で計測される失業率よりも高い、という意見もある)。
現在安倍政権が進めている経済政策がうまくいった場合、名目賃金は若干上昇する可能性があるが、馬の前に荷車をつなぐようなことは間違いだと言えるだろう。つまりは、名目賃金が上昇するとしても、政治的なプレッシャーを通じてそれ(名目賃金の上昇)を強いるのではなく、経済が堅調に回復し、名目GDP成長率が高まる結果としてそうなる(名目賃金が上昇する)のが好ましいと言えるだろう。実のところ、名目賃金が(政府が企業に圧力をかけることで)人為的に引き上げられようものなら、むしろ失業は増加してしまうかもしれないのである。
なお、日本の実質賃金は1990年代以降およそ10%程度下落している点にも注意しておこう。つまり、実質賃金に関しても日本のパフォーマンスは低調なわけだが、このことは日本だけではなく他の先進国(ただし、オーストラリアとカナダ等を除く)に関しても同様に言えることである。最終的にキーとなるのは経済成長である。金融緩和を通じて(名目GDP成長率が高まり、それに伴って)実質GDP成長率が上昇することになれば、引き締め気味の金融政策のために低インフレが続く場合よりも実質賃金はおそらく高まることだろう。ここで思い起こすべきは、2002〜2006年に日銀が量的緩和に乗り出し、日本経済が一時的にデフレから脱却した際のことである。当時実質賃金は(低下するのではなく)横ばいを記録したのであった。繰り返すが、経済成長はゼロサムゲームではない。経済成長を通じて経済のパイが大きくなれば、たとえインフレが上昇したとしても少なくとも長期的には実質所得は増加することになるのである。
(追記)金融引き締めによって実質賃金の上昇がもたらされることを予測するモデルもあるにはある。しかし、その結果、若年労働者が生産性の極めて低いインフォーマル・セクターに追いやられることになるとすればどうだろうか?
Marcus Nunes 「日本で今何が起こっているのか? 〜予想インフレ率の気になる急落〜」
●Marcus Nunes, “A visual take on Japan”(Historinhas, June 4, 2013)
直近のエントリー(訳注;sowerberryさんによる邦訳はこちら)でラルス・クリステンセンが次のように語っている。
ここのところ日本では予想インフレ率が低下しているわけだが、その主たる理由は長期金利(長期国債の名目利回り)の上昇に対する日銀のあべこべな対応にあると私は考える。
日本銀行幹部―黒田総裁も含む―の発言から判断するに、どうやら日本銀行は不可能な試みに乗り出そうとしているようである。つまりは、長期名目金利の上昇をもたらすことなしに金融緩和を進めようとしているようなのだ。日銀がそのような姿勢をとっているために日本銀行の目標をめぐって混乱がもたらされる格好となっており、その結果として予想インフレ率の急落が引き起こされているのである。
クリステンセンの主張は実際のデータによって裏付けられている。以下に掲げる3つの図では、予想インフレ率の推移(I.E;青線)とあわせて、名目為替レート(円ドルレート)の推移(1番目の図/FX;赤色の点線)、日経平均株価の推移(2番目の図/Nikkei;紫色の点線)、10年物国債の利回りの推移(3番目の図/10 year Bond;緑色の点線)がそれぞれ描かれている。
以下の図によると、予想インフレ率がその他の指標の変化を促す(状況の変化に向けたプロセスを始動させる)役割を果たしているように見えるが、2%のインフレ目標の採用と安倍政権の(当初の)高い信頼性を考えるとそれも当然と言えるだろう。
しかしながら、5月9日以降に長期名目金利が急上昇するや、状況にぐらつき(‘wobbly’)が見られる点には注意が必要である。長期国債の利回りは依然低い水準にとどまっており、ここのところは低下傾向にあるが、全般的に見て長期金利の動きは順風満帆(‘smooth sailing’)といった調子である。日銀には次のことを望みたいものだ。まずは日銀の目標が何であるかを明らかにして(視界を晴らして ‘clarifies’)ほしい。そして、量的緩和(に類似した戦略)の目標は長期名目金利を引き下げることだ、との伝統的な見解(量的緩和の航海に乗り出す度にバーナンキが誤って陥った見解)から脱却してもらいたい。
黒田総裁にお願いである。再び力強く漕ぎ出してくれ(please start‘rowing’ vigorously again!)。
「ありがとう、レギュラー先生。さようなら、レギュラー先生」
イングランド銀行の新総裁に就任予定のマーク・カーニー(Mark Carney)に金融政策のノウハウを学ぼうとイギリスに向かわれたレギュラー先生。岩田規久男氏*1が日銀副総裁に就任したとのニュースを今更ながら知って、ひとまず村はずれの庵に戻る決心をなされたようです。
これまでありがとう、レギュラー先生。・・・そして、さようなら。
◎岩田規久男氏が日銀副総裁だって!?
しかし、遊びすぎたワン。カーニーに尾の振り方を学びにわざわざイギリスまで来たはずワンのに、金髪のチャンネーのお尻ばっかり追いかけてたワンね。気持ちを入れ替えてカーニーのお尻を追いかける・・・じゃなくて、カーニーに尾の振り方=金融政策のノウハウを学ぶことにするワン。
ところで、岩菊先生が日本銀行副総裁に就任って本当だったワンね。こちらでも“Kuroda”って言葉はよく目にするワンけど、岩菊先生が副総裁とは知らなかったワン。
ちょっと前にイギリスで会った日本人の知り合いに「岩菊先生が日本銀行副総裁ですって」と言われたことがあるワンけど、「つまらん嘘はいいワン。ところであの件ワンけど・・・」と軽くスルーしちゃたワンね。申し訳ないことしたワンね。
『リフレが正しい。』の暗黒卿の解説に「黒田東彦総裁、岩田規久男副総裁」とあったワンね。あのマネーサプライ論争からおよそ20年ワンね。『日本銀行は信用できるか』という本の著者が日銀副総裁になる日がくるとはねえ(遠い目 ワン。
岩菊先生が副総裁ならたぶん安心ワンね。・・・心置きなくチャンネーのお尻を追いかけまわすことにするワン。
カーニーもいいワンけど、こっちも要チェックワンつ
●黒田東彦日本銀行総裁 「量的・質的金融緩和と金融システム ―活力ある金融システムの実現に向けて―」(日本金融学会2013年度春季大会, 2013年5月26日)
◎スヴェンソン、失意の退任
セントラルバンカーマーケットも動きが慌ただしいみたいワンね。その中でも気掛かりなニュースは「スヴェンソン、失意の退任」ワンね。
まだ続けるんじゃないかという予測が大勢だったみたいワンけど、5月20日いっぱいでリクスバンク(スウェーデンの中央銀行)の副総裁の職を任期満了で辞したみたいワンね(pdf)。
リクスバンクの政策委員の間に広がる「低金利の副作用論」を打ち破ることができなかったみたいワンね。スピーチなんかでも折に触れて反論していたみたいワンけどね。つ
●Simon Wren-Lewis, “Leading Macroeconomist Leaves Central Bank”(mainly macro, April 30, 2013)
「低金利の副作用論」っていうのは、低金利が続くことで家計がどんどん借金を重ねることになり、やがては金融危機につながるぞ、という話ワンね。ちょっと前に暇人さんも触れてらっしゃったワンね。
●himaginary, “中原伸之化していたスヴェンソン”(himaginaryの日記, 2012年11月18日)
このスピーチなんかすごいワンね。まさしく中原伸之化ワンね。「これまでの+現状の金融政策はタイト過ぎ(引き締め過ぎ)だ」
●Lars Svensson, “Monetary policy and employment – monetary policy is too tight”(January 16, 2013)
最後のスピーチかどうかはわからないワンけど、最新のスピーチも「低金利の副作用論」への反論ワンね(スライド)つ
●Lars Svensson, “Debt, housing prices, and monetary policy(pdf)”(April 25, 2013)
リクスバンクでのセントラルバンカーとしての経験を振り返って書かれたこの最新論文も要チェックワンねつ
●Lars Svensson, “Some Lessons from Six Years of Practical Inflation Targeting(pdf)”(May 31, 2013)
◎我、庵に戻るなり
少し気が早いワンけど、2013年上半期の3大ニュースの第1位は文句なしワンね。「岩菊先生、日本銀行副総裁に就任」ワンね。
第2位も文句なしワンね。「テラシマユフ、BiS脱退」ワンね。このニュースは全世界に衝撃を与えたワンね。
問題は第3位ワンね。かなり難航したワン。3日3晩寝ずに厳正な審査を重ねた結果、第3位は「ビーフジャーキーのおいしさを再確認」に決定したワン。去年の総合2位からワンランクダウンワンね。ビーフジャーキーの下半期の活躍に期待ワン。
未だに第2位のニュースの影響を引きずってるワン。しばらく引き籠るワン。
西部邁氏がこう述べているワンね。知識人とは村はずれの狂人のようなものだ、とつ
●Toku, “西部邁「知識人の生態」読了”(想像的タナトスミイラミメーシス, 2012年6月2日)
日本経済は20年近くに及ぶデフレ不況に苦しめられてきたワンね。「村の生活が根本から動揺させられる」状況がずっと続いていたわけワンね。
しかし、今や岩菊先生が日銀副総裁に就任し、クリスティーナ・ローマーも指摘するように、黒い日銀の下でリフレの実現に向けて「レジーム転換」がなされつつあるワンねつ
●クリスティーナ・ローマー 「レジーム転換が必要:大恐慌のレンズをとおして今般の日本の金融政策の展開をみる」
私は知識人ではないし、そもそも人間ですらなく、意見を求められもしていないのに自分からノコノコ出てきたわけワンけど、そろそろ村はずれの庵に戻る時ワンね。
それにしても長い道のりだったワン。こんなに村の中に長居するとは夢にも思わなかったワン。帰る場所=村はずれの庵が無事残っているかどうか心配ワン。
それにしても思い出されるワン。つい間違って「的を得る」とつぶやいたことがあったワン。そしたら次の日hicksianからこう言われたワンね。「レギュラー先生、銅鑼衣紋さんからメールがきてますよ。『レギュラー先生に伝えておいて。的を「射る」ですよ(笑』、と。」
こんな得体の知れない犬のtwitterまでチェックなさっていたワンね。銅鑼衣紋さんなくしてリフレがここまで広がることはなかっただろうワンし、もしかしたら黒い日銀が誕生することさえなかったかもしれないワンね。
銅鑼衣紋さんにはちょっと一足遅れたワンけど、私も村はずれの庵に向かうワンね(銅鑼さんは天国にある庵に向かわれたんだろうワンけど)。庵からもう二度と出てくることがないようにと切に祈っているワン。日本経済の今後に明るい未来が待っていることを願っているワン。それでワン。
*1:注;レギュラー先生は「岩菊先生」と呼んでらっしゃいます
『リフレが正しい。FRB議長ベン・バーナンキの言葉』
本日(5月24日)、中経出版より高橋洋一氏の監訳・解説で『リフレが正しい。FRB議長ベン・バーナンキの言葉』が出版されました。本書は、現FRB議長であるベン・バーナンキによる講演(理事時代の講演も含む)と議会証言、そしてFOMCによるプレスリリース(記者発表)を計7点集めて翻訳したものとなっています。それぞれの翻訳に対して高橋氏による簡単な解説もなされています。
収録内容に関してはoptical_frogさんのエントリーをご覧いただくとして、翻訳担当者の半数ほどは(これまたoptical_frogさんがつぶやかれているように)「道草」参加メンバーとなっております。
そうです。私も一部ですが翻訳に協力させていただきました。そこで私が担当した翻訳箇所に対するサポートの提供を意図しましてそれ用にブログを設けました。このサポートブログでは、誤植や誤訳の訂正(無いことを祈るばかりですが)や収録内容に関する解説めいた事などを提供できればと考えております。「バーナンキの講演」括りということでやや脱線して、本書とは直接的には関係のないバーナンキの講演をあれこれ取り上げることがもしかしたらあるかもしれません。
ともあれ、「デフレの何が問題なのか?」「インフレ目標とは何なのか?」「リフレ(リフレーション)とは何なのか?」「中央銀行の独立性とは何なのか?」「日本経済がデフレから脱却するための方策としてかつてバーナンキが推奨した『3本の矢』*1とは何なのか?」などといった問題にちょっとでも興味がある方は一度手に取っていただければ(そして望むらくは1470円程度の現金と交換していただければ)幸いです。

- 作者: 高橋洋一
- 出版社/メーカー: 中経出版
- 発売日: 2013/05/24
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*1:『3本の矢』なんて表現はもちろん使われていませんが、日本経済がデフレから脱却するための3つの政策手段が提案されています。
「景気循環は椅子取りゲームみたいなもの」
●Scott Sumner, “The game of musical chairs, continued.”(TheMoneyIllusion, January 28, 2013)
景気循環を理解するのにDSGE(動学的確率的一般均衡)モデルなぞ必要ない。景気循環というのは基本的に椅子取りゲームみたいなものなのだ。
名目賃金は極めて粘着的である(変わりにくい)一方、名目GDPは極めて変動が激しい。それゆえ、名目GDPが下落するとその分労働者に(賃金として)支払い得るお金の量が少なくなる*1が、名目賃金が極めて粘着的であるとすると(労働者が名目賃金のカットを受け入れないとすると)、多くの労働者は床に座らざるを得なくなる*2。「床に座る」というのは、すなわち「失業を余儀なくされる」ということだ。
Britmouseがイギリスを例にとってこの点をグラフを用いて視覚化してくれている(ちゃんとした説明は彼のエントリーを見てほしい)。ここで使用されている名目GDPは税引き後の名目GDP(要素価格表示)である。それゆえ、この名目GDPは労働者への支払いとして利用可能な資金の量を表していることになる。以下のグラフによると、2008〜2009年における名目GDPの落ち込みを受けて、W/NGDP(名目賃金/名目GDP)として定義された労働者1人あたりの実質賃金が急騰するとともに、失業率も急上昇していることがわかるだろう。
ところで、ここ最近のイギリスにおける時間あたりの名目賃金は年率2.2%の穏やかな伸び率を記録しており(賃金のデータの所在を教えてくれたW. PedenとJohn Hallには感謝したい)、それゆえ今のところインフレは問題ではないことがわかる。仮にCPI(消費者物価指数)で測ったインフレ率が高い数値を記録するようであれば、それは金融緩和の行き過ぎによるものではなく、経済のサプライサイドに問題がある、ということになるだろう。
「貨幣と生産 〜椅子取りゲームモデル〜」
●Scott Sumner, “Money and output (The musical chairs model)”(TheMoneyIllusion, April 6, 2013)
ここ最近の一連のエントリーでは、金融政策が長期的に物価にどのようなインパクトを及ぼすのかについて説明を行ってきた。その際に依拠した基本的なアプローチに名前を付けると、「ホットポテトモデル」(“hot potato model”)と呼ぶことができるだろう。その内容を簡単に説明すると次のようになる。人々は利子を生まない貨幣を一定量だけ需要する。その際Fedが人々の貨幣需要を上回るベースマネーを供給すると、人々は自らが欲する以上の現金を手にすることになるが、人々はその余分な現金残高*1をいち早く処分しようと試みる*2ことだろう。しかし問題は、個々人のレベルで見ると余分な現金残高を処分することは可能であるが、社会全体のレベルではそのようなことは不可能だ、ということである。このパラドックスは人々が余分な現金残高を処分しようと試みる過程で物価が上昇することによって解決されることになる。つまり、人々が余分な現金残高をそのまま手元に保有することを望むところまで物価が上昇するのである。
残念ながら、現実の世界においては賃金や価格の調整は緩慢であり、その結果として貨幣がもたらす短期的なインパクトは長期的なそれと比べてずっと複雑な様相を呈することになる。次のエントリーでは貨幣が資産価格に及ぼす短期的なインパクトを取り上げる予定である。ここから先は貨幣が産出量(実質GDP)に及ぼす短期的なインパクトについて考えることにしよう。
さて、これまでのエントリーでは次の式に依拠して物価水準がいかに決定されるかを問題としてきた。
P = Ms/(Md/P)
ここからは名目GDPの決定に焦点を合わせることにしよう。名目GDPは次の式を通じて決定されることになる。
P*Y = Ms/k
ここでkというのは、人々が名目所得のうちどの程度の割合だけ貨幣(ベースマネー)を保有しようと望んでいるかを表す変数である(k=1/V*3)。これまでと同様にここでも準備預金には金利が付かないとの前提で議論を進めることにしよう。上の式によると、kが一定の値をとる場合、ベースマネーが増えると名目GDP(P*Y)が上昇することになる。また、M(ベースマネー)の一度限りの変化はkに対して長期的なインパクトを及ぼすことはないと考えられるだろう。
時間あたりの名目賃金は粘着的であるために*4、金融引き締め(Mの減少)によって引き起こされる名目GDPの低下は産出量(実質GDP)と雇用(あるいは労働時間)の減少をもたらすことになるだろう。
この図の総需要曲線(AD曲線)は「名目支出」(“nominal expenditure”)曲線と呼ぶべきかもしれない。というのも、ここではAD曲線は一定水準の名目GDPを表すように描かれているからである(それゆえ、AD曲線は直角双曲線となる)。
上のAD-AS図にあるように、金融引き締めは名目GDPを減少させ*5、名目GDPの減少は産出量と雇用の低下をもたらすことになる。この図では貨幣の短期的な非中立性、すなわち、Mの変化は物価だけではなく産出量も変化させる様子が描かれている(ちなみに、次のエントリーでは、Mの変化がk(あるいは貨幣の流通速度)に及ぼす短期的なインパクトを話題にする予定である)。名目GDPの変化が物価(P)の変化と産出量(Y)の変化との間にどのように分解されるかは短期総供給(SRAS)曲線の傾きによって決定されることになる*6。そして、短期総供給曲線の傾きは賃金や価格の粘着性の程度を反映することになる。
賃金や価格の調整が完了する長期においては、労働時間も産出量も自然水準(自然失業率/自然産出量)に再び落ち着くことになる。確かにこの主張は現実の特定の側面を単純化したものではある−どのマクロ経済モデルに関しても言えることだが−。例えば、不況下において設備投資が先延ばしされ、労働者が労働市場から退出することになれば、産出量の永続的な損失が生じる可能性がある。しかし、例えば大恐慌後に経済が力強い回復を経験したことを思い出すと、そのような永続的な効果は比較的軽微なものだと個人的には考える。
労働者が「貨幣錯覚」(“money illusion”)を抱く―つまりは、労働者が名目賃金の変化と実質賃金の変化とを混同する―場合には別種の非中立性が成り立つ可能性がある。貨幣錯覚が存在すると、名目賃金の変化率の正規分布はゼロ%のところで非連続的なものとなる。つまり、労働者は名目賃金の(絶対水準の)カットを不合理にも受け入れたがらないのである。それゆえ、貨幣錯覚が存在すると、1人あたりの名目GDP成長率のトレンドが極めて低い場合には自然失業率の上昇がもたらされる可能性がある。
(ところで、労働者が名目賃金のカットを受け入れたがらないことを「不合理」と表現する度に次のような反応が返ってくる。「労働者が名目賃金のカットを嫌うことは不合理ではない。というのも、名目額で固定された債務を返済する必要性があるからだ」、と。残念ながらそのような主張は妥当なものだとは言えない。支出が債務の返済だけからなっているならまだしも、事実はそうではないからだ。)
こういった特殊な要因をひとまず脇に置いておくと、これまでにアメリカで生じた景気循環の大半はかなり単純な現象であると言える。というのも、景気循環は次のようなかたちで生じるものと理解できるからだ。過度の金融引き締めが生じると、名目GDP成長率は労働契約が結ばれる際に予想されていたよりもその伸びは低くなる。時間あたり名目賃金の伸び率の調整は極めて緩慢であるために、名目GDP成長率が急落するとW/NGDP(名目賃金/名目GDP)が上昇し、その結果雇用(あるいは労働時間)と生産の縮小がもたらされることになる。また、労働市場の調整が完了するまでには長い年月を要するかもしれない。
経済の不況を次のように椅子取りゲームのアナロジーで捉えることができるかもしれない。音楽が止まって椅子の数が減らされると、ゲームの参加者のうち何人かは(座る椅子を確保できずに)床に座らざるを得なくなる。(名目)賃金が粘着的な中で名目GDPの成長が低迷するということは、椅子の数が減らされるようなものだ。現行の名目賃金の水準の下で完全雇用を維持するに十分なだけの名目総所得(名目国民総所得)が存在しないために、「床に座る」(つまりは、失業する)ことを余儀なくされる労働者が現れてしまうのである。
金利のようなその他の変数もまた景気循環の過程で変動するのは確かだが、そのような変数が失業の増加をもたらすことはないだろう。雇用の動向を決定する上では名目GDP成長率と時間あたり名目賃金の伸び率こそが最も肝心なのである。
(追記その1)Mark Sadowskiが W/[NGDP/(pop)](名目賃金/1人あたり名目GDP)と失業率との相関を示す以下のグラフを送ってきてくれた。
誰か2012年の終わりまでデータを更新してくれないだろうか。データを更新した上で新しいグラフに置き換えたいのだが。
(追記その2)Ron Mがリクエストに応えてくれた。
これまで続けてきた貨幣経済学のショートイントロダクションも次のエントリーで最後である。最後のエントリーでは、貨幣が資産価格に及ぼすインパクトを取り上げる予定である。将来的には貨幣経済学入門のオンライン版にも踏み出してみたいものである。








