タバロック「正義の成長と経済の成長」


●Alex Tabarrok, “The Growth of Justice”(Marginal Revolution, May 9, 2012)

正義(Justice)は経済の成長にとって重要な要素の一つである。自らの生命や自由、財産が恣意的に(自らの意思に反して)略奪されたり破壊されたりするかもしれないと内心ビクビクしている状況下では、誰も投資しようとはしないだろう。法の支配(The rule of law)や小さな政府(limited government)を通じて自由の領域(sphere of liberty)が確保されることになれば、自らの努力(あるいは労働)の成果が権力のある人間(あるいは自分よりも力の強い人間)によって横取りされる心配を抱くことなしに意思決定に臨めるようになるだろう。

しかしながら、正義というのは単に法的な問題にとどまるものではない。公的・私的な差別(discrimination)*1のために、(差別を受けている人間が)個性を磨いて人として成長する能力、つまりは、芸術や経済、科学の分野におけるイノベーションや発展を支える能力に制約が課されているのである。例えばインドにおいてはカースト制度が存在するために、自らの願望や才能、意思にかかわらず、多くの人々は生まれによる縛りを受けている。世界の半分の地域においては、人々は人生に関する限定的なヴィジョン(limited vision of their life)―自分自身で選び取ったわけではないヴィジョン―を押し付けられ、そのヴィジョンに縛られながら日々を過ごしている。ここアメリカでも同様の―他の地域に比べればそれほど強烈なものではないかもしれないが―圧力(差別)のために女性や黒人は制約のある人生を余儀なくされてきたのである。

「才能の配分」とアメリカの経済成長”("The Allocation of Talent and U.S. Economic Growth")と題された画期的な論文で、著者であるJones=Hsieh=Hurst=Klenowは、ミクロの配分モデルとマクロの成長モデルとを結びつけた上で、1960年代以降にアメリカで大きく進んだ差別の解消が経済成長に大きな影響をもたらしたとの推計結果を明らかにしている。

1960年時点のデータによると、医者の94%、弁護士の96%、経営者の86%が白人男性であった。2008年のデータでは、各職業に占める白人男性の割合はそれぞれ63%、61%、57%にまで低下している。こういった職業に就く人々の間で−男性と女性との間、黒人と白人との間で−生まれつきの才能に違いはないと思われるので、1960年時点における「才能の配分」は、生まれつき才能に恵まれている黒人男性/黒人女性/白人女性のかなりの人々が自らの比較優位を追い求めてはいなかったことを示唆していると言えよう。本論文では、1960年から2008年までの期間に生じた白人女性/黒人男性/黒人女性の「才能の配分」(職業選択)の変化がアメリカの経済成長にどの程度貢献したのか推計を試みる。推計結果によれば、その貢献(「才能の配分」の変化が経済成長に果たした貢献)は非常に大きいことが明らかとなった。同期間におけるアメリカの経済成長のうち17〜20%は「才能の配分」の改善によって説明されるかもしれないのである。

言い換えれば、アメリカはこれまでに「正義の成長」から多大なる恩恵を被ってきたわけである。

*1:訳注;不正義