Matthew Yglesias 「プラチナコインの抜け穴」


●Matthew Yglesias, “The Rooseveltian Precent For Exploiting The Platinum Coin Loophole”(MoneyBoX, December 7, 2012)

ハミルトン(James Hamilton)のエントリーとあわせてどうぞ。

その素材がプラチナである限りにおいて財務長官は新しい法貨をいくらでも発行できることが合衆国法典第31編第5112条(K)「硬貨の額面、具体的な仕様、デザイン」("Denominations, specifications, and design of coins")の中ではっきりと述べられている。

(k) The Secretary may mint and issue platinum bullion coins and proof platinum coins in accordance with such specifications, designs, varieties, quantities, denominations, and inscriptions as the Secretary, in the Secretary’s discretion, may prescribe from time to time.
(財務長官は、自らの裁量のもとで下したその時々の指示に適う具体的な仕様―デザインや種類、発行数量、額面、銘刻―を備えたプラチナの地金型コインやプルーフ貨幣を鋳造・発行することが可能である。)

どうして議会はプラチナコインの額面を特定することのないままに*1法令の起草に臨んだのだろうか? 正直言ってその理由はわからない。ともかく、このプラチナコインの発行を巡る規定はアメリカの貨幣的な(金融的な)枠組みにポカンと開いた抜け穴であり、政府資金を調達する方法としてプラチナコインのシーニョリッジに頼ることで債務上限(debt ceiling)の問題から少なくとも一時的には逃れる道筋をつけることができるのは確かだ。

何人かの政府の役人にこの事実を指摘したところ、クスクス笑いで迎えられるのがオチだった。また、ケヴィン・ドラム(Kevin Drum)は、例えば額面が1兆ドルのプラチナコインを発行したらどうかという提案に対して様相実在論的な観点(incredulous stare argument)から批判を加えている。「現実の大統領がこれほどまでに馬鹿げていることが明白な事に手を染めようなどと考えるはずはなく、・・・法律の本来の意図に大きく反しており、・・・バナナ共和国の領域に踏み込むようなものであって」、実現不可能である、と。

そうかもしれない。ただ、そういったことに乗り出すのが偉大なるリーダーなのであり、実際にも前例がある。1933年にフランクリン・ルーズベルト金本位制からの離脱を決めることで大恐慌に一段落を付けた。政策の内容的に見るとこの決定(金本位制からの離脱)は債務の上限をくぐりぬけることよりもずっとラディカルなものであった。また、この決定(金本位制からの離脱)は手続きの面でトリッキーなところがあった。ルーズベルトには金本位制からの離脱を決定できるだけの法的な権限があったのだろうか?

多少の権限があるといえばあった。ルーズベルト第一次世界大戦時に制定された対敵通商法の規定に従って行政命令6102号を発令したのである。対敵通商法の規定がこのようなかたちで利用されることを議会は意図していただろうか? そんなわけはないだろう。大恐慌期におけるルーズベルトの金(ゴールド)を巡る政策は第一次世界大戦ともその他の戦争とも何の関係もなかった。しかしながら、ルーズベルトによる金本位制からの離脱の決定が法的に認められた権限の範囲内にあったことには揺るぎがない。ルーズベルトにとって金本位制からの離脱は正しい選択であり、彼が必要だと感じていることを実際にも可能にする方法を見つけるのが(彼に仕える)法律家の仕事だとルーズベルトは考えたのであった。良くも悪くも反テロ政策に関する限りは、このルーズベルトの態度はオバマ政権の態度に通じるところがあるという点はここで指摘しておこう。 ルーズベルトは実際の戦争遂行に劣らないほどの厳格さで大恐慌との戦争に挑むつもりであることをはっきりと宣言し、そして最終的に良い結果を収めたのであった。政府の資金を調達する手段としてこのプラチナコインの手品に日常的に頼るのはいいアイデアだとは思わないが、債務不履行(デフォルト)や債務の上限を巡る際限のない危機を繰り返すよりはずっと望ましい方法である、と個人的には考えている。プラチナコインの発行を俎上に乗せることは、共和党議員が何を語りどのように行動しようとも、債務不履行は選択のうちには入らず、譲歩はあり得ないことを明らかにする上で適切な方法であり、結果的には彼ら共和党議員の面子も保たれ、マコーネルの原則が受け入れられるようにもなるはずだ。

*1:訳注;コイン一単位の額面をいくらにするかを決めることなしに