Marcus Nunes 「アベノミクスのこの1年の成果を振り返る」


●Marcus Nunes, “‘Abenomics’ one year on”(Historinhas, January 16, 2014)

一昨年(2012年)の9月のこと、経済を再び力強い成長軌道に乗せるとともにデフレからの脱却を目指すことを公約に掲げた安倍晋三氏が自民党の新たな総裁に選出された。そして、同年の12月に行われた衆院選自民党が勝利を収めたことで安倍氏は晴れて第96代の内閣総理大臣に就任することになったわけだが、それから1年が経過しようとしている。この1年の間に安倍氏の公約はどの程度果たされているだろうか?

以下ではいくつかの図表を通じてこの1年のアベノミクスの「パフォーマンス」を見ていくことにしよう。

まず最初の図表はインフレ−ヘッドラインインフレ率(青色)およびコアインフレ率(赤色)−の推移を辿ったものである。

日本のインフレ率は長い間マイナス(デフレ)の領域を漂っていたが、上の図にあるようにここにきてインフレ率はその勢いを増しつつある*1ように思える。


次の図表は総需要(名目GDP;赤色)と(実質的な)産出量(実質GDP;青色)の推移を辿ったものだが、どちらの伸び率(成長率)もともにプラスの領域に向けて大きくバウンド(急上昇)している様が見て取れることだろう。


次の図表は日経平均株価(青色)と為替レート(ドル円レート;赤色)の推移を辿ったものである。

上の図表にあるように株価は大きく上昇しているわけだが、この株価の動きはアベノミクスの効果についてポジティブな期待が抱かれていることを示唆していると言えるだろう。また、円が減価(円安)傾向にあることも見て取れるが、通貨の減価は金融緩和が実体経済に影響を及ぼす上で重要な経路の一つである。この点に関連して、日本と貿易の面で競合する国の間から「日本は「近隣窮乏化」(‘beggar-thy-neighbor’)政策に乗り出している」との非難の声が当初あがっていたわけだが、そのような反応は筋違いであったと言えよう。というのも、次の図表に示されているように、確かに日本の輸出(青色)は増えているがそれ以上のペースで輸入(赤色)が増えているのである−その結果、日本は貿易収支の赤字を抱える格好となっている−。

(輸入の伸びが輸出の伸びを凌駕しているという)この事実は、金融緩和に伴う所得効果*2が通貨の減価に伴う交易条件効果*3を上回っていることを示唆していると言えるだろう。言い換えると、貿易赤字の拡大は内需国内需要)の増加を反映しているのだ。

アベノミクス」が進行中の日本とユーロ圏の現状を比較してみるのも面白いだろう。

次の図表は日本とユーロ圏のマネーサプライ(M3)の伸び率の推移を示したものである。日本(赤色)ではアベノミクスの計画に沿うかたちで金融政策は緩和スタンスにあるが、ユーロ圏(青色)では金融政策は引き締めスタンスにあることが見て取れるだろう。


両経済圏における金融政策のスタンスの違いを考えれば、両者の間でインフレが対照的な動きを見せているとしても何も驚くことはないだろう。日本ではインフレ率は目標である2%に向かって上昇を続けている一方で、ユーロ圏ではインフレ率は目標を下回っているばかりか低下傾向にあり、ユーロ圏の中にはデフレを経験している国も見られるのである。


日本銀行とECB(欧州中央銀行)の行動の違いがどのような結果の違いをもたらしているかを要約したものが最後の図表である。この図表では日本(青色)とユーロ圏(赤色)の実質GDP成長率の推移が示されている。


要約することにしよう。アベノミクスは(安倍氏の)公約を果たしつつあるように思える。今後もこの調子が続くことを祈るばかりだ。そしてユーロ圏については次のように結論付けられるかもしれない。ユーロ圏は「日本が抜け出しつつある状況」に向かって歩を進めているのかもしれない*4

*1:訳注;マイナスからプラスの領域に上昇する傾向にある

*2:訳注;金融緩和によって総需要ひいては総所得が増加し、その結果輸入需要が増加する効果

*3:訳注;円安によって国内製品が国外製品よりも価格面で割安になり、その結果純輸出(輸出マイナス輸入)が増加する効果

*4:訳注;このままいくとユーロ圏は(日本と入れ違うかたちで)デフレや長引く景気の低迷を経験することになるかもしれない、ということ