‘Buy local’, ‘Food miles’


●Pierre Desrochers and Hiroko Shimizu, “YES, WE HAVE NO BANANAS: A Critique of the “Food Miles” Perspective”(Mercatus Policy Series, Policy Primer no.8, October 24, 2008)

Summary
As modern food production and distribution becomes ever more complex and globalized, a “buy local” food movement has arisen. This movement argues that locally produced food is not only fresher and better tasting, but it is also better for the environment: Because locally produced food does not travel far to reach your table, the production and transport of the food expend less energy overall. The local food movement has even coined a term, “food miles”, to denote the distance food has traveled from production to consumption and uses the food miles concept as a major way to determine the environmental impact of a food.

This Policy Primer examines the origins and validity of the food miles concept. The evidence presented suggests that food miles are, at best, a marketing fad that frequently and severely distorts the environmental impacts of agricultural production. At worst, food miles constitute a dangerous distraction from the very real and serious issues that affect energy consumption and the environmental impact of modern food production and the affordability of food.

The course of the debate over food miles is nonetheless instructive for policy makers. It highlights the need to remain focused on the issues that are important—in this case, the greenhouse gas emissions of highly subsidized first-world agriculture, the trade imbalances that prevent both developed and developing countries from realizing the mutual benefits of freer trade, biofuel subsidies, and third-world poverty. With the population of the planet growing rapidly, numerous food-policy issues other than food miles should preoccupy policy makers.


日本でいうと「地産地消」にあたるんだろう<‘Buy local’。
食料自給率引き上げるべしっていう議論も今のところ主に国防上の観点(=どこぞの国との関係が悪化して食糧の輸入に頼ることができなくなったらどうするんだ!! =食糧安保)に重きをおいて主張されているようだけれども(美しい田園風景を守り、もって子供の情操教育にどうこう、っていうような意見も耳にするか)、そのうち環境問題と絡めて主張の補強がなされるような気がしないでもない。こういった感情的になりがちな話題こそしっかりとデータを踏まえてヨリ冷静に議論したいものだけれども、政治に対する○○関係者の影響力の大きさを考えるとあんまり期待できそうもないな。食料自給率の引き上げにしろ地産地消にしろそういったことが推進されることによって一番得するのは誰かといえば○○関係者であることは明らかなんだけれども、○○関係者のために食料自給率の引き上げ目指しますなんて大っぴらに主張されるわけもなく、国防うんぬん、景観保存うんぬんといった脅しやら美辞麗句やらで真の意図を覆い隠してしまうわけだ。政策の意図を理解するためにはその政策が現実にどのような効果をもたらしたかあるいはもたらしそうであるかを調べよ、とは公共選択論の教えるところ。


(追記)

“Buy Local”(≒地産地消)の主張者によれば“Buy Local”は社会経済的な観点からしていいことづくめの消費行動であるらしい。“Buy Local”は、①地域経済の活性化、②地域コミュニティーにおける社会的紐帯の回復(生産者と消費者との顔の見えるやりとりが復活することによる)、③新鮮+安全+高品質な地場の農産物が可能にする健康的な消費生活、といった望ましい諸効果を備えているというのである。これだけでも十分なのに“Buy Local”はさらなる利点を備えているという。“Buy Local”は環境にも優しい消費行動であるというのである(“Buy Local”の利点についての記述は論文のpp.3による)。
自給自足でない限り生産された農産物は消費者の元にまで輸送されねばならない。生産地と消費地とが距離的に遠く離れていればいるほど、農産物の輸送にかかる距離は長くなり、輸送に要する化石燃料の消費もそれだけ多くなるであろう。輸送距離が長ければ長いほど輸送に要するエネルギー消費=二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出も多くなり、それゆえ地球環境に対する悪影響も大きくなると考えられる。逆に言えば、生産者から消費者までの(農産物輸送にかかる)距離=“food miles”が短ければ短いほど輸送に要するエネルギー消費は少なくなるので地球環境にとって優しいということになる。“Buy Local”は“food miles”を短縮する(=生産者と消費者との距離を縮める)ことによって(農産物輸送に伴う)温室効果ガスの排出抑制につながると考えられ、その意味で“Buy Local”は環境にも優しいと捉えられているのである。

Desrochers/Shimizu論文の目的は、上に簡単にまとめたように“Buy Local”は“food miles”が短いのだから環境に優しいんだ、という一見してもっともらしい主張の是非をデータに基づいて検証することにある。結論的には「地球環境に優しい“Buy Local”」という主張は疑わしい、つまり現状の国境を超えた(=貿易を通じた)農産物のやりとり=長い“food miles”を要する農産物のやりとりを“Buy Local”で置き換えることによって温室効果ガスの排出が削減されるとは(実際のデータを見る限りでは)考えにくいということである(むしろ“Buy Local”の推進によって温室効果ガスの排出は増加する可能性が高い)。「なんで?」ということだけれども、その理由は、

The most problematic aspect of the food-miles perspective is that it ignores productivity differentials between geographical locations. In other words, activists assume that producing a given food item requires the same amount of inputs independently of where and how it is produced. In this context, the distance traveled between producers and consumers, along with the mode of transportation used, become the only determinants of a food’s environmental impact. But any realistic assessment must reflect both transport to final consumers and the total energy consumption and greenhouse gas emissions associated with production. (pp.6)

つまり農産物の生産に要するエネルギー消費に違いがあるから、ということになる。例えばトマトの栽培のために要するエネルギー消費が生産地や生産方法によらず同じであるならば、“food miles”は環境負荷の指標としてそれなりに意味がある=“food miles”が大きければ大きいほど環境に悪影響、ということになるだろうけれども、生産地と生産方法が違えば当然トマト栽培に要するエネルギー消費には違いがある。“Buy Local”が地球にとって優しいかどうかを判断するためには、“food miles”だけでなく(=どれだけの距離を輸送する必要があるのか)、輸送に加えて生産や消費(調理)に要するエネルギー消費も勘案して判断しなければならない。

以下に論文のポイントを簡単にまとめると、

 1.“food miles”の大きな部分は国内における輸送=消費者が車に乗ってお店に買い物に出かける部分によって占められている(vehicle kilometersで測った場合)。とすると、“Buy Local”によって“food miles”が劇的に縮小するとは考えられない(消費者が相も変わらず車を使用してショッピングし続けるならばあまり変化はない)。また、“food miles”の大きさと二酸化炭素排出の程度に1対1の対応があるわけでもない(vehicle kilometersで1番大きな割合を占める自動車、ton kilometersで1番大きな割合を占める海上輸送が二酸化炭素排出の大きな部分を占めているかというとそうでもない)。たびたび非難される空輸*1は農産物輸送による二酸化炭素排出のうち小さな割合(=10%)しか占めていない*2。(これらの点はpp.7の円グラフで簡単にまとめられている。ただし、図に付されている番号がたぶんずれてる。図1とあるのは実際は図3とするのが正しくて(図1→図3)、以下図2→図1、図3→図2)
 2.生産から消費までのプロセス(農産物の輸送、生産、消費(調理)の過程)において最もエネルギーを消費する部分(二酸化炭素排出が最も大きな部分)は輸送の過程ではない。ビニールハウスを使用して農産物を栽培したり、冷凍コンテナを使って農産物を貯蔵したり、といったことには大きなエネルギー消費が伴うということを忘れてはいけない。温暖な気候のためにビニールハウスを使わずとも生産が可能である地域(あるいは国)から輸入することをやめて近場でビニールハウスを使って生産しようものなら(=輸入から“Buy Local”への転換)、輸送距離の節約によるエネルギー消費の節約効果(1に簡潔にまとめたようにこの効果はそれほど大きくないであろう)はビニールハウスの使用によるエネルギー消費の増大によって消し飛んでしまうであろう。


結局のところ、諸外国との貿易によって季節に関わらず多様な種類の食べ物を口にできる現在の状況を“Buy Local”によって置き換えようものなら、二酸化炭素排出の増大というコストを引き受けねばならない可能性が高いということである(あるいは“Buy Local”によって二酸化炭素排出が削減されるという保証はどこにもない)。“Buy Local”によって“food miles”が縮小する? だから何だというのだろう。“food miles”を短縮したいのであれば、車でショッピングすることをやめる方がよっぽど効果がある。“food miles”の問題に関する限り、どこで買うかよりもどのように買うか、という点こそが重要なのである。また“food miles”をどれだけ短縮しようとも生産・調理の過程におけるエネルギー消費の効率が変わらないのであればあまり意味はない(生産、調理の過程の方がエネルギー消費が大きいのだし)。“Buy Local”に転換することによって生産におけるエネルギー消費の効率が良くなるという保証があるなら別だけど、そんな保証あるのかね? エネルギー消費の効率があんまりよくないからこそ(=その結果としてコスト高だからこそ)輸入しているのではないの? 

“Buy Local”の促進は、エネルギー消費の節約(二酸化炭素排出の抑制)につながる保証がないだけでなく(逆の可能性の方が高い)、(1)季節に関わらずに好きなものを食べることができる、(2)多様な種類(メニュー)の食物を食べることができる、という(私から見たら)利点の放棄を伴う可能性が高い(“Buy Local”っていうのは言ってみればこれまで他人にやってもらっていたことを自分でするようなものだから分業関係から離脱することでもある。ジャガイモもパイナップルもリンゴもスイカもあれもこれも自分で作ろう、という志の高さは買うけれども、下手すりゃ全部中途半端で気づいたら手元に食べられるものが何もないというオチが待っているかもしれない。ジャガイモ作りにだけ集中すれば、あれもこれもと手を出す場合と比べればうまくいく可能性は高いだろうけれども、ジャガイモだけの生活ってつまらんな)。地球には優しくないわ、食べたい時に食べたいものが食べられなくなるわ、日々の食事は変わり映えがなくなるわ。私からすれば“Buy Local”には何の魅力もないように見えるんだけれども、きっとどこかいいところがあるんだろう。「食料の安定供給を確保することは、社会の安定及び国民の安心と健康の維持を図る上で不可欠です」ということらしいけど、“Buy Local”によって食料の安定供給は確保されるだろうかしら? “Buy Local”っていうのは一つのバスケットに卵を全部入れるみたいなところがあるから天災なんかには脆弱だろうし、その点色んな国から輸入するっていうのは卵を色んなにバスケットに入れてるみたいなもので一種のリスク分散であると捉えることができる(=色んな国から輸入しておけばどこぞで天災が起こってそこからの食料供給が途絶えたとしても他の国から調達可能なので(天災が地球規模のものでなければ)食料供給の大きな変動は回避できることになる)。食料の安定供給を確保するためには色んな国から自由に農産物を輸入すること=自由貿易がベターだろうから「食料の安定供給」というのも“Buy Local”の利点とは言えないな。“Buy Local”のいいところ、いいところ・・・・。

*1:コメント欄で「空輸もエネルギー効率がいい」なんて書いたけれどもあれは間違い。空輸が二酸化炭素排出に占める割合は小さい、というのが正しい。

*2:農産物輸送に伴う二酸化炭素の排出が一国全体の二酸化炭素排出のどれだけの割合かというと、イギリスの2002年のデータでは1.8%とのこと。よって空輸を完全にやめてしまったところで一国全体で見てこの場合1.8%の10%(=各自で計算してください)だけの二酸化炭素排出が削減されるに過ぎない。