「2%じゃ不十分」


●Paul Krugman, “Two Percent Is Not Enough”(The Conscience of a Liberal, January 26, 2012)の訳。

コーエンのTED講演の訳も残すは1回。焦らすわけではないですが、クルーグマンの訳を一回挟みます。1月25日(アメリカ時間)に開催されたFOMCの決定(こちらこちら参照)に対するクルーグマンのコメントです。

この度のFOMCの決定についてどう思うかコメントを求められているので所感を述べさせてもらおう。この度のFOMCでは2014年終盤まで政策金利を現在の低い水準に据え置くことが決定されたわけだが、この決定は正しい方向への第一歩だと言える。この決定を受けてマーケットは目に見える形で反応し、長期金利は低下することになった。実にいいことじゃないか。

しかし疑問もある。目標とするインフレ率が2%に設定されたのは一体どうしてなのだろう?

その理由は、FOMC内のタカ派が依然として力を持っており、彼らに譲歩しなければならなかった、という事情にあるのだろう。しかしながら、最近の経験は以下のことを強力に支持しているように思える。つまりは、大停滞(Great Recession)に先立つ期間においてFedは暗黙のインフレーションターゲットとして約2%のインフレ率を目標に金融政策を運営していたが、2%というインフレ率はあまりにも低すぎ、4%かあるいは5%のインフレ率の方がずっと望ましいだろう、ということである。IMFのチーフエコノミストでさえこの私の見解と同意見だ(IMFのチーフエコノミスト"でさえ"とは言っても、そのチーフエコノミストというのはあのオリヴィエ・ブランシャール(Olivier Blanchard)−非常に頭が切れる人物であり、柔軟な思考のできるマクロ経済学者でもある−なんだから当然の話ではある。今のこの時期に彼がIMFのチーフエコノミストを務めてるってことは実にありがたい話だ*1)。

重要なポイントは、明示的なインフレーションターゲットを正式に導入するつもりであれば、正しい方向に修正を施す(get it right)*2べきタイミングは今だ、ということだ。危機の記憶が薄れ、誰もが皆再び自己満足に浸るようになるまで先延ばしするのではなく、今こそ(正しい方向に修正を施すべき)そのタイミングなのである。

というわけで、この度のFOMCの決定はこれまで我々が待ち望んできたような政策転換を示すものではない。確かに、何もしないよりはまし、とは言えるが。

*1:訳注;道草のコメント欄におけるHiroo Yamagataさんのご指摘に基づき訳を若干修正。

*2:訳注;正しい方向に修正を施す=目標とするインフレ率を2%に設定するのではなく、4%ないしは5%に設定し直す