「15年ものタイムロス−ついに聞き入れられたフリードマンのアドバイス」


●Lars Christensen, “15 years too late: Reviving Japan (the ECB should watch and learn)”(The Market Monetarist, April 4, 2013)

これまで過去15年にわたって日本銀行はデフレ的な政策(deflationary policies)を推し進めてきたが、その日本銀行が今や進路をはっきりと変えつつあるようだ。このことは本日開催された金融政策決定会合の内容を見れば誰の目にも明らかだろう。今回の決定に関しては「極めてよいニュースだ」という言葉以外に何と書いたらよいものかこれといってうまく思い付かない。今回の日本銀行の決定は日本にとっても世界経済にとっても好ましく、また、教科書通りの金融緩和策であると言える。あえてマイナス面を挙げると、ターゲットが名目GDPの水準ではなくインフレ率に置かれている点ということになるだろうが、ともかく、今回決定された金融政策はうまくいくだろうし、それもすぐに効果が表れるだろうと個人的には強く確信している。

さて、ここでミルトン・フリードマンMilton Friedman)に賛辞を送ることにしよう。以下はミルトン翁が1998年に執筆した論説“Reviving Japan”(「日本経済の再生に向けて」)からの引用である。

堅調な景気回復を促す上で最も確実な方法はマネーサプライの伸び率を高めることにある。言い換えると、金融政策を現在のタイトな(引き締め気味の)状態から緩和の方向へと転換し、マネーサプライが1980年代の黄金時代においてとほぼ同じペースで−あまりにも行き過ぎないように注意を払いつつ−成長するよう図ることにある。もしそうなれば、現在大いに必要とされている金融制度や経済制度の改革も一層容易に進めることが可能となるだろう。

日本銀行の擁護者はおそらく次のように語ることだろう。「貨幣量を増やせと言いましても、具体的にはどうやればよいのでしょうか? 日本銀行はもう既に公定歩合を0.5%にまで引き下げています。貨幣量を増やすために他に何ができると言うのでしょうか?」、と。

その答えは至極簡単なものだ。日本銀行は公開市場で国債を購入する(買いオペを行う)ことができる。その購入代金は現金通貨あるいは日本銀行における預金(準備預金)−経済学者がハイパワードマネーと呼ぶもの−のかたちで支払われることになるが、購入代金の大半は民間銀行の準備預金として積み増されることになるだろう。準備預金が増えると、民間銀行は貸出や債券の購入を増やすことが可能となるが、その過程で(信用創造を通じて)預金通貨が増加することになるだろう。しかしながら、民間銀行がそのように行動するかどうかに関わらず、ともかくマネーサプライは増加することになるだろう。

日本銀行がマネーサプライを増やす能力には限界はなく、日銀が望めばどれだけの規模であろうともマネーサプライを増やすことができる。マネーサプライの伸び率が上昇するといつでもどこでも次のように同じような効果が表れることになるだろう。(マネーサプライの伸び率が増加してから)大体1年ほどして経済は一段と速いペースで拡大することになるだろう。まずはじめに産出(実質GDP)が増加し、それからしばらくしてインフレーションが緩やかながら上昇することになるだろう。

1980年代後半の状況に立ち戻ることで、日本経済の再生が促されるとともに、その他のアジア諸国経済の立て直しがサポートされることになると期待されるのである。


次に本日開催された日銀の金融政策決定会合の内容(pdf)(訳注;日本語版はこちら(pdf))の一部を以下に引用しよう。

この方針のもとで、マネタリーベース(2012年末実績138兆円)は、2013年末には200兆円、2014年末には270兆円に達すると見込まれる。

毎月の長期国債グロスの買入れ額は7兆円強となると見込まれる。

日本銀行は、消費者物価の前年比上昇率2%の「物価安定の目標」を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する。このため、マネタリーベースおよび長期国債ETF保有額を2年間で2倍に拡大し、長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長するなど、量・質ともに次元の違う金融緩和を行う。


フリードマンが先のアドバイスを送ってから15年が経過しているが、ついに日本銀行フリードマンのアドバイスを聞き入れたわけである。日銀による今回の決定は日本経済の再生に大いに寄与するに違いない。ところで、日本銀行フリードマンのアドバイスを聞き入れたというにとどまらない。その実、日本銀行はマーケット・マネタリストのメッセージーチャック・ノリス効果に訴えよ−も聞き入れた上で、期待の管理にも乗り出しているのである。黒田総裁、グッジョブ!!

最後に、ECB総裁であるマリオ・ドラギ(Mario Draghi)宛てのメッセージで締め括ることにしよう。ドラギ総裁、もしあなたがユーロ危機を収束させたいのであれば、日本銀行の今回の決定をコピー&ペーストするだけでよい。あなたがた(ECB)が掲げているインフレ目標は日銀と似たようなものなのだから、そう難しい話でもないだろう。

サムナー 「臆病さという名の罠」


●Scott Sumner, “Nothing to see here folks, move right along”(TheMoneyIllusion, April 4, 2013)

多くの著名なマクロ経済学者や経済専門家、ブロガーの口々から「FedBOE、ECBにはもはや打つ手がない。だからこそ財政刺激策が必要なのだ」との主張が発せられているが、ここのところの日本経済の動きは彼らの主張の間違いを証明し続けている

黒田東彦氏が3月20日に新しい日銀総裁に就任して以来初めて開催される金融政策決定会合は、黒田総裁がリーダーシップをとって(1月に採用されたばかりの)「物価安定の目標」の達成に向けて非伝統的な手段に踏み出すよう日銀を促すことができるかどうかを試す大きなテストの機会と見なされていたが、本日の決定会合の結果をマーケットは好感したようである。

本日の決定会合後、国債先物価格は急上昇し、新発10年物国債の流通利回りは過去最低の0.425%にまで低下した。また、会合前は上昇を続けていた円は会合の結果を受けて下落することになった。円は会合前の1ドル=92円90銭から1ドル=95円25銭へと2%以上の円安を記録したのである。

さらに、日経平均株価終値は前日比2.2%の上昇を見せ、先月つけた4年半ぶりの最高値に接近することとなった。

本日の決定を受けて今後日本銀行は(グロスで見て)毎月7兆5000億円のペース−これは毎月の国債発行額の7割にあたる−で長期国債の購入をすすめる格好となる。今後は「資産買入等の基金による長期国債の買入れ」と「金融調節上の必要から行う国債買入れ(輪番オペ)」とを統合した上で、40年債を含む長期国債の買い入れが実施される見込みとなっている。

会合の結果が発表される直前に株価が大きく下落したことを考えると、株価は会合後に4%以上上昇したことになる。確かに決定の方向性に関しては予想された通りではあったが、債券の購入額が予想以上であったこともあり、マーケットは上の記事で指摘されているような反応を見せることになった。今日のマーケットの動きだけではなく昨年の11月半ば以降の株式市場の動向、つまりは、安倍晋三氏が政権奪取をかけて選挙戦を戦う中で2%のインフレ目標を掲げてマーケットにショックを与えて以降の株式市場に何が起こったかに着目した方が適当であるかもしれない。昨年の11月半ば以降、日本の株価は45%の上昇を記録しているのである。加えて、昨年の11月半ば以降、円はドルに対しておよそ20%も安くなっているのである。

今後日本銀行の政策が「機能する」かどうかをめぐって議論が巻き起こることだろう。しかし、日本銀行の政策はもう既に機能しているのである。今回の決定を受けて円は急落したが、もし経済が「流動性の罠」に陥っているとしたらそのようなことは起こるはずがない。ここのところの日本経済で生じている現象は、不換紙幣を発行する中央銀行が自らの「臆病さ」(timidity)以外の何ものかによって「罠に嵌る」ことなど決してない、ということのさらなる証拠であると言える。仮にインフレーションが2%にまで上昇することがなければ、何度も何度も何度も何度も繰り返し(果断な金融緩和を)試せばよい。円ドルレートが1ドル=200円になってもインフレーションは生じないだろうか? 果たして1ドル=400円になったらどうだろうか?

(以下略)