ギャグノン ギャニオン「今こそ金融刺激の時」


●Joseph E. Gagnon, “Time for a Monetary Boost”(The Huffington Post, July 21, 2010)

keiseisaiminの日記(“ギャグノンによるFedがすべきこと。”)経由。

(追記)Gagnonの表記を「ギャグノン」から「ギャニオン」に変更。コメント欄でのご指摘による。ありがとうございます。

今週行われた議会証言(pdf)において、ベン・バーナンキFRB議長は、追加的な金融刺激策に向けてドアは開かれている旨を示した(将来的に追加的な金融刺激策を採用する可能性を匂わせた)が、今はまだその時ではないとの意向も明らかにした。さらなる金融刺激策の採用に対して議長が示すためらいの姿は、多くの人々の間で景気回復の足腰は極めて弱いとの見解が広く共有されていることからすると、いささか不可解に映るかもしれない。上院議員らから向けられた質問に答える中で、バーナンキ議長は、Fedが追加的な金融刺激策の採用にためらいを見せる理由についてのヒントを提供している。曰く、昨年の景気の落ち込みに対処するにあたって「Fedが積極的に行動しなかったと主張できるような人は誰もいない」。

実際、Fedは、伝統的な政策手段である政策金利を果敢に引き下げたり、前例のない非伝統的な政策手段の数々を採用したりして、積極的な行動を見せた。手慣れた業務分野から大きく隔たった目新しいオペレーションに従事するにあたって慎重になるのは自然な反応であり、Fedは、過去12ヶ月の大半の期間にわたって、一連の政策がどのような効果を持ったかを探るために慎重な見極めの構えをとってきた。今や評決が下される時である。Fedの一連の政策対応は、実施された政策に関する限りは、成功を収めた。Fedの一連の政策対応のおかげで不況(depression)の瀬戸際にあったアメリカ経済は穏やかながらも景気回復局面に復することになった。しかしながら、Fedの政策は、堅調で満足いく景気回復を実現するには力不足であった。

Fed自身の予測では、雇用水準が長期的に持続可能なレベルにまで復帰するには少なくとも3年から4年はかかるとのことである。この3年から4年という長期間にわたる高失業の時期においては、生産的な労働資源が浪費され、失業者らは表立っては伝えられることのない苦しみを経験することになるだろう。Fedは、(3年から4年というのではなくて)2年以内に雇用水準が長期的に持続可能なレベルにまで回復するよう狙いを定めるべきである。議会がさらなる刺激策の実施に抵抗していることもあり、Fedによる積極的な行動の重要性はますます高まっている。

さらには、現在のアメリカ経済にとって差し迫った深刻なリスクは、インフレーションではなくデフレーションであることは明白である。最新のデータによれば、消費者物価、生産者物価ともに全般的な下落傾向を示している。食料品やエネルギーといった価格変動の激しい商品を除いたコアインフレ率は、中央銀行が経済成長にとって最適であるとみなし、またFedが(暗黙的に)目標として設定してきたところの2%を下回る水準で推移している。

明らかに、追加的な金融刺激策が強く求められている。しかしながら、追加的な金融刺激策としてどのような手段を採用すべきだろうか? 今現在金融市場の状況は良好であり、それゆえFedは「異例かつ緊急の状況」条項に基づいて民間の非銀行部門向けに直接貸出しを行う必要はない。むしろ、Fedは、銀行システム向けの貸出しや政府債券の買い取りといった伝統的な役割に戻るべきであろう。今のこの時点においては、特に以下の3つの手段が役立つことだろう。

まず第1の手段として、Fedは準備預金(中央銀行預け金)に対して支払っている金利を0%にまで引き下げるべきである。現在準備預金には0.25%の金利が支払われているので、これを0%にまで引き下げるというのは小さなステップではあるが、付利がなされる準備預金と極めて代替的な関係にある短期の財務省証券よりも高い金利を銀行に対して支払う理由はどこにもないのである。3か月物の財務省証券(TB)の利回りは現在0.15%であり、この利回りも準備預金付利と同様に0%にまで引き下げられるべきである。

第2の手段として、Fedは満期がヨリ長めの国債の利回りを引き下げるべきである。具体的には、3年物の中期国債の利回りのターゲットを0.25%に設定し、実際の利回りがターゲットである0.25%を上回る場合には、積極的に3年物中期国債を買い進めてターゲットの維持に努めるべきである。3年物中期国債の利回りは現在0.90%なので、ターゲットを0.25%に設定するということは、0.65%(65ベーシスポイント)の引き下げを意味することになる。3年物中期国債の利回りが引き下げられることになれば、(訳者注;ポートフォリオ上における資産の代替を通じて)満期がヨリ長い他の債券の利回りも低下することになり、民間の経済主体が銀行からローンを借り入れる際の各種金利も低下することになるだろう。そうなれば、企業による実物投資が刺激され、住宅市場が下支えされ、ドルの減価(ドル安)を通じて輸出が促進されることになるだろう。短期から中期にかけての政府債券の利回りを引き下げるという以上の政策手段は、デフレと闘うための戦略として2002年にバーナンキによって提案された政策手段そのものでもある。

最後に第3の手段として、Fedは、固定金利・金額無制限(full-allotment)での融資を実施するファシリティーを創設することを通じて、先の2つの政策手段の効果を後押しすることができる。具体的には、このファシリティーでは、銀行は、高格付けの担保を条件として、最大24か月満期、0.25%の固定金利で金額無制限の融資を受けることが可能となるであろう。

以上で提案してきた政策手段はどれもFedの既存の権限の範囲内で実施可能なものであり、また、Fedのバランスシートをリスクにさらすこともない。これらの政策手段が実施されれば、6000億ドル規模の財政刺激策が2年間にわたって継続された場合とほぼ同程度の失業の軽減につながるだろうし、さらには、(訳者注;景気回復に伴う税収増によって)連邦財政赤字の縮小にもつながることだろう。また、デフレーションのリスクが去ってインフレーションのリスクが台頭してきた暁には、政策の方向性を素早く反転させることも可能である。

先行きの失業やインフレーションの見通しが暗い中にあって、加えて議会による追加刺激策に向けた行動が欠如している中にあって、Fedによる追加的な金融刺激策(特に本論説で提案したような政策手段)こそが今現在のアメリカ経済に求められている適正な処方箋(薬)なのである。