ローレンス・ボール「Fedの決定を解釈する」


●Laurence Ball, “Interpreting the Fed”(Greg Mankiw's Blog, December 13, 2012)

友人でもあり論文の共著者の一人でもあるローレンス・ボール(Laurence Ball)から今回のFedの決定に関する素早い分析がメールで送られてきたので以下に転載する。

今回のFOMCの決定はビッグニュースだと個人的には考える。というのも、今回の決定は、将来においてFedが危機以前に成り立っていたテイラー・ルールから示唆されるよりもハト派寄りのスタンス(より緩和的なスタンス)をとるつもりであることを明確に宣言したはじめてのケースだからだ。

私自身の推計によると、危機以前においては実質金利(r)の決定に関するテイラー・ルールは以下のように定式化されることになる。

r = 2.0−(1.5)(u−u*) + (0.5)(pi−2.0)

ここで今現在もu*(自然失業率)は5.0(5.0%)だと想定することにしよう。上の式にu=6.5とpi=2.5 を代入すると*1、r=0ということになる。インフレ率は2.5%なので名目金利iは2.5(2.5%)だ。しかし、今回のFedの決定によると(u=6.5、pi=2.5の状況において)名目金利iはゼロに止まるというわけだ。

現在u*(自然失業率)は5.0%よりも高くなっているという意見があるが、そうだとするとテイラー・ルールから導かれる名目金利iは先の2.5%よりも高くなるだろう。となると(もし自然失業率が5.0%以上だとすれば)、今回のFedの決定は将来においてテイラー・ルールから示唆されるよりもハト派寄りのスタンスをとる意向の表明だとの結論はなお強められることになる。

また、r* (自然利子率;上の式では右辺の第1項である定数項)は現在2.0%から1.0%に低下しているとの意見もある。私自身はこの意見は疑わしいと思っているが、仮にそうだとすると、テイラー・ルールから導かれる名目金利iは1.5%ということになる。今回のFedの決定は将来においてテイラー・ルールから示唆されるよりもハト派寄りのスタンスをとる意向の表明だ、との私の結論は依然として妥当する。

このようなかたちでのテイラー・ルールからの逸脱はテイラー・ルールが発見されてからこのかた生じた試しがない。2003年に関してもFedはテイラー・ルールから示唆されるよりもハト派寄りのスタンスをとっていたわけではなかった*2。2003年の時点では、u=6.0、u*=5.0、pi=1.0、という数値がほぼあてはまるものと考えられるが、上に掲げたテイラー・ルールからは、r=0、i=1.0、との結果が導かれることになる。i=1.0というのは当時の実際の名目金利と一致しているのである。

将来におけるハト派スタンスの表明が現時点において十分な効果を持つかどうかは明らかではない。将来の金融政策に関する宣言がどのような効果を持つかについてはまだ証明されていないのである。

*1:訳注;uは失業率、piはインフレ率。u=6.5、pi=2.5というのは今回のFedによるゼロ金利解除の基準を指しているものと思われる。今回のFOMCの決定では、失業率が6.5%を下回るかインフレ率(の予測値)が2.5%を超えない限りはゼロ金利を継続する旨が明らかにされた。

*2:訳注;ここで特に2003年を取り上げているのはテイラー等の見解を意識しているものと思われる。テイラーらは、2003年から2005年にかけて実際のFF金利はテイラー・ルールから導かれるよりも低い水準に設定されていた、と主張している。今回のFedの決定を受けてテイラーもブログにエントリーをあげているが、そこでこのボールのエントリーについても言及しており、「2003年時点におけるFF金利はテイラー・ルールから導かれる水準よりも低いわけではなかった」というここでのボールの見解に異議を唱えている。