ハイエク、大不況について語る
●Steve Horwitz, “Hayek on Deflation and the Great Depression”(The Austrian Economists, October 20, 2009)
“I agree with Milton Friedman that once the Crash had occurred, the Federal Reserve System pursued a silly deflationary policy. I am not only against inflation but I am also against deflation. So, once again, a badly programmed monetary policy prolonged the depression.”
(私はフリードマンの主張、つまりはFRBは暗黒の木曜日(Great Crash)以降愚かなデフレ志向の金融政策を推進した、という点に同意する。私はインフレだけでなくデフレにも反対の立場だ。FRBによる稚拙な金融政策―再度繰り返された失敗―が不況を長引かせたのだ)
上のハイエクの発言は、著名な経済学者数名(あっ! ヒックスもいる!)に対するインタビューを収めた本(以下でアマゾンリンクを貼った本)からの引用。「フリードマンの主張に同意」とあるように、大不況(Great Depression)期のFRBの金融政策を厳しく糾弾しているさまがうかがえる。
再度繰り返された(once again)というのは、Google booksで該当箇所を確認する限りでは、Great Crashを招いた原因もまた稚拙な金融政策(1927年から始まる行き過ぎた金融緩和)であった、ということを意味しているようだ。
そもそも行き過ぎた金融緩和が株価の急上昇を生み出したのであり、その意味で1929年の株価大暴落の種をまいた。これに加えてFRBは株価大暴落後には行き過ぎた金融引き締め政策に転じた。1929年以前の行き過ぎた金融緩和と1929年以降の行き過ぎた金融引き締め、この2重の失敗が不況を長引かせたのである、と。金融政策はGreat Crashに端を発する不況の原因であり、また単なる不況(recession)を大不況(Great Depression)へと深刻化させた原因でもあった、というのがハイエクの理解ということになろう。
ハイエクは「Great Crashの原因でもあり、またGreat Depressionの原因でもあった金融政策」に対しては否定的である、とさらに指摘することは蛇足のように感じられるかもしれないが、「ハイエク=清算主義者」という理解があることを考えれば見逃すことのできない点である。というのも、清算主義者であるならば「Great Crashの原因でもあり、またGreat Depressionの原因でもあった金融政策」に対して肯定的に反応するだろうからである。ハイエクが「インフレだけではなくデフレにも反対である」と発言したり、またGreat Crashとデフレを引き起こした金融政策を「馬鹿げた(silly)」「ひどい(badly)」と形容して否定的に捉えていることは「ハイエク=清算主義者」との見方に疑問を投げかけることを意味していよう。
果たしてハイエクは清算主義者("liquidationist")であったのか、という点もあわせてハイエクの景気循環論を再考する必要があるのかもしれない。
(追記)「果たしてハイエクは清算主義者("liquidationist")であったのか」という点に関しては以前韓リフ先生が紹介されていたLawrence H. Whiteの論文を是非とも参照したいところ。
●tanakahidetomi, “ハイエク(とロビンズ)は「清算主義」だったのか?”(Economics Lovers Live, 2008年11月13日)
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