「景気循環は椅子取りゲームみたいなもの」
●Scott Sumner, “The game of musical chairs, continued.”(TheMoneyIllusion, January 28, 2013)
景気循環を理解するのにDSGE(動学的確率的一般均衡)モデルなぞ必要ない。景気循環というのは基本的に椅子取りゲームみたいなものなのだ。
名目賃金は極めて粘着的である(変わりにくい)一方、名目GDPは極めて変動が激しい。それゆえ、名目GDPが下落するとその分労働者に(賃金として)支払い得るお金の量が少なくなる*1が、名目賃金が極めて粘着的であるとすると(労働者が名目賃金のカットを受け入れないとすると)、多くの労働者は床に座らざるを得なくなる*2。「床に座る」というのは、すなわち「失業を余儀なくされる」ということだ。
Britmouseがイギリスを例にとってこの点をグラフを用いて視覚化してくれている(ちゃんとした説明は彼のエントリーを見てほしい)。ここで使用されている名目GDPは税引き後の名目GDP(要素価格表示)である。それゆえ、この名目GDPは労働者への支払いとして利用可能な資金の量を表していることになる。以下のグラフによると、2008〜2009年における名目GDPの落ち込みを受けて、W/NGDP(名目賃金/名目GDP)として定義された労働者1人あたりの実質賃金が急騰するとともに、失業率も急上昇していることがわかるだろう。
ところで、ここ最近のイギリスにおける時間あたりの名目賃金は年率2.2%の穏やかな伸び率を記録しており(賃金のデータの所在を教えてくれたW. PedenとJohn Hallには感謝したい)、それゆえ今のところインフレは問題ではないことがわかる。仮にCPI(消費者物価指数)で測ったインフレ率が高い数値を記録するようであれば、それは金融緩和の行き過ぎによるものではなく、経済のサプライサイドに問題がある、ということになるだろう。