慣習の力

間宮陽介著『モラル・サイエンスとしての経済学』より、公平賃金仮説に関連する箇所を少しばかり引用。

少なくとも短期的に見た場合、現実の貨幣価格を安定化させるのは習慣(habit)の力をおいてほかはない、と彼(=H・タウンシェンド)はいう。・・・「正常性」あるいは「適宜性」という慣習的な観念が貨幣賃金水準や貨幣債務の契約価格水準に関して広くいきわたっており、このような観念が価格の変動幅をある枠の中に抑える傾向を生み出す。・・・(貨幣賃金の引き上げ、引き下げに抵抗があるのは)雇用主と被用者の双方に根強くいきわたっている現実の慣習に基づいているのである。貨幣賃金の急激な変化は好ましからざることだと考えられており、それが慣習的な基準からあまりにもかけはなれたものになれば、それは雇用主と被用者のいずれの側からみても何らかの意味で“不公平”なのである。(p81)

公正観念や慣習などの社会的要因が賃金や価格に硬直化の傾向を与えるのである。・・・貨幣の価値を安定化させる契機・・・となるのが公正観念や慣習といった要因であり、これらは貨幣賃金や貨幣価格に反映され、そのことを通じて貨幣は自己の価値を安定に保つ。(p101)