FOMC声明文の重箱の隅を突っついてみる


WSJ Staff, “Fed Statement Following November Meeting”(Real Time Economics, November 4, 2009)

「今回FOMCFF金利の誘導目標を現状の0〜0.25%の水準に維持する(=つまりは現状維持)という結論に達した」ということで前回と変わらずということなんだけども、ここでは前回の声明文との違いという点にこだわってみようと思う(前回の声明文との違いを比較するにあたってはロイターの記事が非常に有益である。以下の訳もロイターの訳を利用させていただいた)。個人的に目についた違いというのは、以下の文章

The Committee will maintain the target range for the federal funds rate at 0 to 1/4 percent and continues to anticipate that economic conditions, including low rates of resource utilization, subdued inflation trends, and stable inflation expectations, are likely to warrant exceptionally low levels of the federal funds rate for an extended period.
FOMCフェデラルファンド(FF)金利誘導目標水準をゼロ─0.25%に据え置く。また低水準の資源利用(low rates of resource utilization)や抑制されたインフレ基調(subdued inflation trends)、安定的なインフレ期待(stable inflation expectations)といった経済状況により、FF金利を長期間(for an extended period)異例に低水準とすることが正当化される可能性が高いと引き続き予想する。)

の中で、現状の金利水準を継続することが「低水準の資源利用や抑制されたインフレ基調、安定的なインフレ期待といった経済状況」に照らして正当化されると述べている点*1。つまりは、①低水準の資源利用、②抑制されたインフレ基調、③安定的なインフレ期待、という3つ指標に照らすと、「当面の間」(for an extended period;ロイター訳では長期間)現在の低金利水準を維持することは妥当との結論に達した、ということであり、現在の環境下においてFedFF金利を設定するにあたりこの3つの指標を重視していることがわかる。言い換えれば、この3つの指標がFedの今後の政策スタンスを判断する際の鍵になるということである。
前回の声明文とのこの違いは、少し前にウッドフォードがWSJでのインタビュー(“Q&A: Economist Woodford on Fed and Rate Expectations”)の際に語っていたこと(以下の訳はhicksian訳)

There’s been much talk about the Federal Reserve introducing changes to its language, possibly at its next rate-setting meeting on Nov. 3-4. Do you think the Fed will soon stop noting that the federal-funds rate will stay very low for an “extended period”?
(次回11月3〜4日に開催されるFOMCFedが声明文の文言に何かしらの変更を加えることになるだろうかどうだろうかと盛んに話題になっています。ウッドフォード教授、あなたはFOMCの次回声明文から「Fedは「当面の間(for an “extended period”)」FF金利の誘導目標を異例の低水準に据え置く」という表現が削除されることになると思いますか?)

Woodford: I could imagine them dropping that language. The problem with this kind of language is that it’s perceived as making a promise about future interest rates independently of what happens in the meantime. Even those policy makers who believe that it’s important to reassure people that the Fed isn’t already planning to raise rates would find that language somewhat problematic. What I think they should try to do is to find a way of talking about what the conditions are under which interest rates would rise, rather than simply pretending that there are no conditions under which rates would go up.
(ウッドフォード;削除されるというのも可能性としてはあるでしょうね。そのような表現が孕んでいる問題は、Fedは将来の経済状況とは関係なしに今後も金利を低い水準に据え置き続けるつもりだと国民やマーケットから認識されてしまう可能性があるということです。国民に対して「Fed金利を今すぐ引き上げるつもりはない」と念押しすることの重要性を考慮に入れている政策当局者たちもそのような表現は今言ったような誤解を招きかねないという意味で問題を含んでいるということはわかっているでしょう。Fedが試みるべきことは、「Fedは将来的にいかなる状況が到来しようとも金利を引き上げるつもりなどない」との誤ったメッセージを匂わすような表現を放置しておくよりも、「Fedは〜〜といった条件が整えば金利を引き上げるつもりである」ということを国民やマーケットに誤解なく伝える有効な手段(表現方法)を見出すことでしょうね。)

と密接に関連するものである。FF金利の誘導目標の引き上げ=「出口戦略」の発動というように捉えれば、上でウッドフォードが語っていることを一言で要約すると、「「出口戦略」発動の条件を明確にせよ」というように解釈することができようが、今回のFOMC声明文における「「低水準の資源利用や抑制されたインフレ基調、安定的なインフレ期待といった経済状況」により、FF金利を長期間(for an extended period)異例に低水準とすることが正当化される可能性が高いと引き続き予想する。」との表現(の変化)は、「資源利用の改善が進み、足元のインフレ率が加速する兆しを見せ、インフレ期待の上昇が観察されれば、「当面の間」継続している現在の低金利水準を変更する」というようにも読み替えることができ、まさにウッドフォードが求めていたこと=「出口戦略」発動の条件(どういう条件が整えば「当面の間」の終結を意味するのか)の明確化、に向けて一歩踏み込んだものと理解することができるのである。
ただ依然として問題は残る。第1点はこの3つの指標が具体的にどういう値をとった時にFedが条件が整ったと判断するのか不明であるという点*2。第2点はこの3つの指標間での重みづけが不明ということであり、例えば①の指標である資源利用の改善が進んだと判断しただけでもFedは政策スタンスを変更することがあり得るのか、それとも3つの指標がともに政策スタンスの変更を要求する水準に達した場合にのみFedFF金利の誘導目標を引き上げるのかが曖昧である、という点だろう。


(追記)Real Time Economicsでも突っついてたみたいだね。もっと徹底してるけど。

●Phil Izzo, “Parsing the Fed: How the Statement Changed”(Real Time Economics, November 4, 2009)

*1:ちなみに前回声明文は「The Committee will maintain the target range for the federal funds rate at 0 to 1/4 percent and continues to anticipate that economic conditions are likely to warrant exceptionally low levels of the federal funds rate for an extended period.」となっていて、「経済状況」(economic conditions)の中身として具体的に3つの指標が取り上げられている点に違いがある。本当に重箱の隅をつついたような話だね。ウッドフォードのインタビューに触れたいがためにこうして強引に重箱の隅をつつくような話をしているという側面もなくはない。

*2:あと①の資源利用の程度を測る際にどのデータを用いるのか