金融政策の指針としてのブレイク・イーブン・インフレ率


久々のレギュラー先生のつぶやきシリーズです。「レギュラー先生お元気ですか?」との声を度々いただくことがありまして、先生の生存証明の意味も兼ねましてつぶやきシリーズを復活させてみました。つぶやきのストックはたんまりとありますので、今後も機会を見て先生のつぶやきを投稿していきたいと考えております。

M.フリードマン著/斎藤精一郎訳『貨幣の悪戯』をパラパラと眺めていたら面白い記述に遭遇したワン。
ヘッツェル(Robert Hetzel;ただし、引用文中では「へゼル」と表記)の研究に依りつつ、中央銀行は(今日言うところの)ブレイク・イーブン・インフレ率(=物価連動国債の利回りと通常の国債利回りの差≒期待インフレ率)を目標として金融政策を運営すべし、ということが語られてるワン。

長いけど以下に該当箇所を引用しておくワン。

「最近のことだが、ロバート・ヒゼルは独創的な案を発表した。・・・(略)・・・ヒゼルの提案はこうである。
法律によって、財務省が発行する長期債券を標準型債券と物価スライド型債券に分ける。物価スライド型債券の利子と元金の支払は物価指数と結びつけ、財務省が債券を発行するときはこの2種類を等額に発行する。
名目ドルで支払われる標準型債券の市場利回りは、実質(インフレーションを調整した)利回りと投資家が予想したインフレ率の合計とする。物価スライド型債券の利子はドルが有する一定の購買力で支払われ、この債券の市場利回りは常に実質利回りとなる。この2種類の債券の利回りの差は、債券が償還されるまでの投資家の予想インフレ率によって決まる。
ヒゼルは、この提案をこう説明する。
金融政策の実施からインフレーションが沈静化するまでには、大きな時間的ズレがある。このため、特定の金融政策の実施とインフレ率の動向を関連付けることは難しい。この案の場合、予想インフレ率の変化は標準型債券と物価スライド型債券の利回りの差となって現れ、市場が現行の対インフレ金融政策(あるいは無策)の効果を継続的かつ即座に評価することになる。
市場が予想したインフレ率は、政府や金融当局がインフレーションを起こすような政策を採らないように継続的かつ効果的に牽制する。仮に、市場が連邦準備制度の行動をインフレ的であると判断すれば、即座に標準型債券の利回りは上昇し、標準型債券と物価スライド型債券の利回りの差が開く。・・・」(邦訳、pp.284〜285)

「これもまた重要なことだが、市場がインフレ率を予想するということは、市場は連邦準備制度の行動を見守ることになり、連邦準備制度になぜそのような行動を採るのか説明を求めることになろう。」(邦訳、pp.286)

「ヒゼルの案を広く解釈すれば、この2つの債券の利回りの差をある数値内―例えば3%以内―に収めておくことを連邦準備制度に義務付ける何らかの法的措置が必要となろう。このような法律は、現行のどの法律よりも、連邦議会にとって金融政策の明確なガイドラインとなる。最近のことだが、連邦準備制度にインフレ率ゼロ%を目標とすることを命じる法律案が示された。この法案の目的は好ましいが、このような要求は強制できることではない。第一、監視できるものではない。なぜなら、対インフレ政策が実施されたとしても、それがインフレ率に影響を及ぼすまでには「大きな時間的ズレ」があり、現在の金融当局の罪(あるいはその逆)を後任者になすりつけることになるからだ。2種類の債券の利回り差を一定の数値内に収めるように規制する法案なら、このような問題は生じない。
このたぐいの要求には、それがどのような要求であれ、目標を達成できなかった場合の確たる制裁措置―例えば、職務解任とか減給―が盛り込まれるべきだろう。」(邦訳、pp.286)


引用にある「ヒゼルの案」というのはこれワンね(正確には↓の論文の参考文献に挙がってるHetzelのWSJの記事ワン)つ

●Robert Hetzel,“Indexed Bonds as an Aid to Monetary Policy”<http://www.richmondfed.org/publications/research/economic_review/1992/er780102.cfm


貨幣の悪戯

貨幣の悪戯