Great Depressionの恩恵


●Randall Parker, “The Great Depression: Part II”(Randall Parker's Completely Serious/Sometimes Funny/ Bash-Free Macroeconomics Blog, December 4, 2008)

コーエンの『一般理論』読書会の話題をフォローしたんだから、パーカーの連載の続報も取り上げなきゃ失礼にあたるだろう。
Great Depressionの暗い側面ばかりがクローズアップされるけれども、Great DepressionはGreat Depressionの恩恵とも呼びうるような褒め称えられるべき側面も備えている。Great Depressionの恩恵、それは......酒が飲めるようになったことだ*1


(追記)Great Depressionの恩恵として他に(真面目な話として)9点が挙げられている。

#10 It showed bad economic policies give us bad economic outcomes (National Industrial Recovery Act anyone?).
(Great Depressionのおかげで経済政策の善し悪しが一国経済の好不調を決定する(稚拙な経済政策は我々を経済的な苦境に陥れることになる)、ということを学ぶことができた)
#9 We abandoned Say's Law and the real bills doctrine for good.
(Great Depressionのおかげでセイ法則と真正手形学説とに永遠の別れをすることができた)
#8 We provided a social safety net for those less fortunate (even though it currently is out of hand and unaffordable...stay tuned for the next 50 years and watch what happens to entitlements).
(Great Depressionのおかげで不運な人々をサポートするセーフティーネットが整備されることになった)
#7 We were divorced from the silly notion of having to balance the federal budget annually.
(Great Depressionのおかげで年々の財政収支は均衡させねばならないという馬鹿げた考えからおさらばすることができた)
#6 We put the gold standard in the history books for good (Donald Luskin where are you?).
(Great Depressionのおかげで金本位制を過去の遺物として(歴史書の中の1ページに過ぎないものとして)この世から永久に葬り去ることができた)
#5 After leaving gold we had independent economic policies and traded external balance for internal balance as we should.
(金本位性から離脱することで経済政策(特に金融政策)のフリーハンドを手にすることが可能となり、金融政策を(為替の安定や経常収支の均衡等に割り当てるのではなく)国内事情に焦点を合わせて運営する道が開かれた)
#4 The FDIC obviated banks' chronic problems with the liabilities side of their balance sheets (don't worry, now they have all manners of trouble with the assets side).
(Great Depression期に設立されたFDIC連邦預金保険公社)のおかげで銀行の取り付け騒ぎが予防される(あるいは預金者保護が充実する)ことになった)
#3 The Depression showed that general deflation is a macroeconomic death sentence (attention Ben Bernanke!).
(Great Depressionのおかげでデフレーションはマクロ経済的な死の宣告である、ということが理解されるようになった)
#2 The Depression gave us an aggressive Federal Reserve that is not going to let the financial markets implode.
(Great Depressionのおかげで金融市場のパニックを成行きに任せて放置してはならないことが認識されるようになった。今日のFRB金融危機に対して積極的かつ迅速に対応するようになったのはGreat Depressionから学んだ教訓のおかげである。)

*1:1933年禁酒法廃止

ケインズ『一般理論』ネット読書会第1回目


始まったよ。

●Tyler Cowen, “General Theory, chapters one and two”(Marginal Revolution, December 8, 2008)

I see three main themes in the book as a whole:

1. Income effects are more important than substitution effects.

2. Expectations matter.

3. The private and social returns to liquidity are very different.

#1 (as applied to macro) and #3 were most original in his time. The book as a whole circles around these themes and repeats them in varying combinations, not always coherently or consistently. You could also add the claims that 4. monetary factors render a "natural rate of interest" problematic and 5. labor markets are special. Chapter two is essentially about #1 and #5.


現在コメント欄の調子が悪いみたいですけど、のちのちディスカッションのためにコメント欄が解放されることでしょう。今帰ってきて何の準備もしてないけども、時間があればあとで参加してみよ。

ちなみに次回のスケジュールもすでに決まっているようで、読書会の第2回目は今週の木曜日(12/11)の予定らしい。次回は『一般理論』の第3章と第4章がテーマですと。

(追記)

ディスカッション会場はこちらのコメント欄の模様。


(追々記)結局読書会には参加できず。次回こそは。


上に引用したけれども、コーエンはケインズ『一般理論』のポイントを3点挙げている。

1. 代替効果よりも所得効果の方が重要である、とのケインズの認識
2. 「期待」要素の重視
3. 個人にとっての流動性の効用と社会全体にとっての流動性の効用とは大きく異なること

第3番目のポイントが何を意味しているのか今のところはあまりはっきりしないけれども、おそらく個々人が貨幣を保有し退蔵することと社会の大勢の人々が同時に貨幣を退蔵することとはマクロ経済に与える影響の点で大きな違いがある、ということを言いたいんだろう。貨幣は好きなものをいつでも好きな時に購入できる力=流動性を備えており、貨幣の保有は個人に選択の自由・伸縮性という効用をもたらす。でもみんなが一斉に貨幣の流動性を求めて貨幣を退蔵してしまった場合、その先に待っているのは有効需要の不足を原因とする不況。
以下ケインズ『一般理論』より引用。

「いって見れば、人々が月を欲するために失業が生ずるのである。欲求の対象(すなわち、貨幣)が生産することのできないものであって、それに対する需要も簡単に抑制することができない場合には、人々を雇用することはできないのである。救済の途は、公衆に生チーズが実際には月と同じものであることを説得し、生チーズ工場(すなわち、中央銀行)を国家の管理のもとにおくよりほかにはないのである。」(第17章, pp.234)


雇用・利子および貨幣の一般理論

雇用・利子および貨幣の一般理論


ちなみにコーエンも共著*1ケインズ『一般理論』に関する論文を書いている(そういうわけでコーエンが『一般理論』を読むのは今回が初めてというわけではないと思う。たぶん)。それも第17章に焦点を当てたもの。

●Tyler Cowen and Randall Kroszner(1994), “Money's Marketability Premium and the Microfoundations of Keynes's Theory of Money and Interest”(Cambridge Journal of Economics, vol.18(4), pp.379-390)

*1:共著者のRandall Kroszner氏は現在FRBの理事を務めてらっしゃいます。