We are all Friedmanians now.


●Robert J. Barro、“Milton Friedman: Perspectives, Particularly on Monetary Policy(pdf)”(Federal Reserve Policy in the Face of Crises(Cato Institute 24th Annual Monetary Conference),November 16, 2006)


金融政策の話題に絞って要点を箇条書きにしてまとめておきます。


・1930年代の大不況の原因について

大不況は市場経済の機能不全が発現した結果(=市場の失敗)であり、市場が正常な機能を回復するためには積極的な政府介入が必要である(ケインズ)  vs 大不況は政府の失敗、特にFRBによる金融政策の失敗の結果である(フリードマン)→「小さな政府+ルールに基づく金融政策」


・money→real economy

歴史的に見て、貨幣量(マネーサプライ)は貨幣需要のシフトから独立であって、名目貨幣量と経済活動(実体経済)との間における正の相関関係は貨幣量から経済活動への因果関係(貨幣量の増加→名目(あるいは実質)GDPの増加)を反映している(『A Monetary History of the United States』


・アンチケインジアン

1960年代、アンチケインジアンと見做されるフリードマン。マクロ経済の撹乱要因として貨幣的要因を重視したため→景気安定化手段として金融政策の役割を重視する1980年代以降のニューケインジアン=20年後の和解?


・“The Role of Monetary Policy”

貨幣量と物価水準の予想外の変化だけが実体経済に影響を持ちうる(ルーカスによる合理的期待革命を準備)。しかしながら、システマチックな金融政策であっても名目価格や名目賃金が硬直的である短期においては実体経済に影響を与えることができる。

However, Milton’s monetary framework implied a potentially important role for activist monetary policy in smoothing out the business cycle. Systematic monetary changes had substantial short-term real effects, and wise interventions could improve the functioning of the macro economy. Implicitly, the private market was working badly, beset by sticky prices and wages in the short run, and the monetary authority could help by stimulating the economy in recessions and cooling things down in booms. No wonder that this part of Milton’s monetary ideas would be embraced by Keynesians in the 1980s.


・long and variable lags&rules versus discretion

短期的には(あらかじめ予想されたものであっても)金融政策の変化は実体経済に影響を及ぼすことができる。しかし、金融政策の効果が表れるまでには多少時間がかかり、また効果が表れるまでにどのくらいの時間がかかるかについてあらかじめ正確に予想することはできない(効果が表れるまでに要する時間は政策が発動される状況により変化する)ため、タイミングよく政策を発動することは非常に困難(景気安定化を意図した政策が景気不安定化の原因となる場合も)→政策当局に対して貨幣成長率を一定に保つルールを課し、裁量的な政策運営の余地を減ずるべき


・k%ルールの誤り

M1やM2といった貨幣量の成長率を2%あるいは3%に保つべきというフリードマンの主張はインフレ率を安定化させる上では問題を抱えている。実質貨幣需要量は不安定であり、インフレ率を安定化するためには名目貨幣量を実質貨幣需要量の変化に合わせて調節せねばならない。


・インフレーション・ターゲッティング

目標として掲げたインフレ率を達成するべく金融政策が運営される過程においては名目貨幣量は自動的に実質貨幣需要量の変化に合わせて変動する(名目貨幣量は内生的)。インフレ率の低位安定化(low and stable inflation)に貢献するインタゲは、low and stable inflationを中央銀行の使命と考えるフリードマンの精神を受け継ぐものとして評価できる。


・「我々は、今や皆ケインジアンだ」;誤った解釈とフリードマンの真意

“In one sense we are all Keynesians now; in another, nobody is any longer a Keynesian.” →「we are all Keynesians now」=マクロ経済学が独立した分野として成立するきっかけを作ったケインズを評価したもの。ケインズの議論の中身、特に積極的な政府介入を容認する『一般理論』の内容に同意したわけでは決してない(in another, nobody is any longer a Keynesian)。