景気安定化政策の効果
A. C. ピグウ著/塩野谷九十九訳『所得 ―経済学入門―』(東洋経済新報社、増補版、1959年)の pp.129〜131より引用。
私は少し前に、やがて明らかとなる理由から高い平均的失業に対する救済策を論ずる前に雇用の変動に対する救済策について論じようと述べた。その理由は、変動に対する最も多く論ぜられた救済策がまた、その程度において、高い平均的失業に対する救済策でもあるということにある。・・・(中略)・・・しかし、私がこれまで述べてきた変動の幅を小さくすることを目的とする特殊の政策は、実際には失業の平均水準にも影響する。その影響の仕方には二つある。
第一に、一般的需要が変動している場合には、好況期に需要の一部分が雇用の形をとって現われず、いわば、雇用者が満たそうと思いながら満たすことのできない空席という形をとってむだに終る数多くの場所および職業の存在することはたしかである。したがって、需要が安定し、好況時における需要の一定の減少が不況時におけるそれに等しい増加と結びつく場合には、好況時には雇用の減退は需要の減退に比べて少ないけれども、不況時には雇用の増加は需要の増加に等しい。このことは雇用の平均水準が高められることを意味する。
第二に、需要に上昇変動のある場合には、それと結びつく可能性のある賃金率の上昇運動を阻止すべき天井は存在しない。しかし、下降変動のある場合には、賃金率がもはやどうしてもそれ以下には低下しえないきわめてはっきりした底がある。それが確立されるのは、一部分は、何が合理的な賃金であるかに関する公衆の感情によってであり、一部分は、人々が、たとえまったくなんらの仕事をしないとしても、失業基金からある最低限を受取ることを期待しうるという事実によってである。賃金率の上昇運動と下降運動とに対する効果の間のこのような非対称性は次の結果をもたらすことになる。すなわち、需要を従来常に存在していた平均に安定することは好況時と不況時とを通じて平均賃金率の引下げを伴い、したがって雇用者にとってより多くの人を雇うことがおそらく有利となるということがそれである。このことについては若干の論争がある。しかし、私の意見では、労働需要を安定させようとする諸政策はこれら二つの理由によって、単に雇用変動の程度を少なくさせるのみでなく、好況時と不況時とを通ずる雇用の平均水準をかなり高める可能性がある。
第一の理由付けについて注釈をちょっと。
好況期(=潜在GDP水準を超える景気拡張と理解すべきか)における失業=構造的失業あるいは摩擦的失業(自発的失業)が主であり、好況期において有効需要が増加しても雇用の増加になかなか直結しない(反対に有効需要が減退しても雇用の減少規模は小さい)けれども*1、不況期における失業=需要不足による失業(非自発的失業)が主であり、不況期における有効需要の増加は雇用の増加に直結する。景気変動を均すために好況期に有効需要を減少させるような政策をとれば雇用が減少し(失業の増大)、また不況期において有効需要を増大させるような政策をとれば雇用は増加するが、好況期・不況期にそれぞれ採用された政策が有効需要に与えた影響の規模が同程度(緊縮政策による総需要の減少額=緩和政策による総需要の増加額)であったとすれば、
好況期において緊縮政策が採用されたことによる(=総需要が減少したことによる)雇用減
∧
不況期において緩和政策が採用されたことによる(=総需要が増加したことによる)雇用増
となるであろう。
景気変動を均すことによって景気変動を放置しておく場合と比較して(景気循環の1周期を通じた)雇用の平均水準は高まることになるであろう。
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