リフレ政策(or 物価水準目標政策)のすすめ


●Greg Mankiw, “The Next Round of Ammunition”(Greg Mankiw's Blog, December 16, 2008)


今回のFOMCの決定を受けてのマンキューのエントリー。これは必読でしょう。
・・・と毎度の如く無責任にリンクだけ貼るのも何なんで許可もなく勝手に全文訳してみた。
ただし直訳ではなく、所々色をつけて訳していることを注意しておく。

With the Fed having cut its target interest rate today to a range of zero to 1/4 percent, many people will be asking whether the central bank has run out of ammunition. A good question. Obviously, the next step is not going to be further cuts in the federal funds rate. But there is still more the Fed can do.
(本日のFOMC連邦公開市場委員会)で政策金利であるFFレートの誘導目標を0〜0.25%に引き下げる旨が決定された。この決定を目にして、Fedの弾薬庫はもう空っぽなんだろうか、Fedは総ての手を打ち尽くしてしまったのだろうか、と多くの人々が不安や疑問を抱いていることだろう。その疑問はいい質問だ。Fedが採用しうる次なる手がFFレートの更なる引き下げではないことは確かだが、だからといってFedにできることはもはや何もないということにはならない。Fedにできることはまだ残されている。)

Notice this passage in the Fed's press release (emphasis added):
(プレスリリースの次の文言を見てほしい。ゴシック体にしてある箇所は私が加えたものである。)

The Federal Reserve will employ all available tools to promote the resumption of sustainable economic growth and to preserve price stability. In particular, the Committee anticipates that weak economic conditions are likely to warrant exceptionally low levels of the federal funds rate for some time.
連邦準備制度理事会は持続的な経済成長の促進と物価安定の維持のために利用できるあらゆる手段を採用するであろう。特に、FOMCは経済の不安定な状況が継続する限りはFFレートを「しばらくの期間にわたって」(for some time)例外的な低位水準に保つであろう。)

The phrase "for some time" is aimed at managing expectations in order to keep long-term interest rates down.
(この「しばらくの期間にわたって」(for some time)との文言は、より長いタームの金利低下を実現するために人々の期待に働きかけることを意図したものであるといえる。)

The next step for the Fed is to drop the "price stability" rhetoric. The Fed has never been truly committed to stable prices. After all, inflation during the Volcker-Greenspan era averaged about 2 to 3 percent. The Fed could have lowered inflation to zero if it had wanted. Now that zero, or even below zero, is a possibility, the Fed needs to convince people that we are going back to the normal inflation rate of 2 to 3 percent.
Fedが次に採るべき手は「物価安定」なるレトリックを弄ぶことをやめること、プレスリリースから「物価安定」なる曖昧な文言を削除すること、これである。Fedはこれまで決して明確なかたちでは物価の安定にコミットしてこなかった。ボルカーとグリーンスパンが金融政策の舵取りを担っていた時期におけるインフレ率は平均して2〜3%であった。Fedは望むならばインフレ率を0%にまで引き下げることもできたであろう。今や0%のインフレ率、あるいは0%以下のインフレ率(つまりはデフレーション)の可能性も視野に入ってきており、今こそFedは通常の状態に回帰すること、つまりはFedは2〜3%のインフレ率水準を目標として金融政策を運営するつもりであることをマーケットに知らしめる必要があろう。)

Let me suggest this wording for the Fed's next press release:
(ここで私なりの提案をさせてもらいたいと思う。次回のプレスリリースには次のような文言を加えてもらいたいところだ。)

The Committee recognizes that moderate inflation would be desirable under the present circumstances. In particular, the overall level of prices a decade hence should be about 30 percent higher than the price level today. The committee anticipates keeping the stance of monetary policy sufficiently accomodative to achieve that degree of inflation over the coming decade.
FOMCは現在の状況下では緩やかなインフレーションを容認することは望ましいことであろうと考えている。特に、緩やかなインフレーションということで、10年後の物価水準が現在の物価水準と比べておよそ30%高くなるようなインフレ率水準のことを考えている。FOMCは、今後10年間にわたり金融政策のスタンスを先に述べた物価水準経路の達成に必要なインフレ率実現に向けて十分なだけアコモデート(適応)させていく予定である。)

That is, even if the Fed cannot reduce nominal interest rates, it can reduce real interest rates by committing to a modest amount of inflation.
(この文言が言わんとしていることは、Fed名目金利をこれ以上引き下げることはできないが、緩やかなインフレーションの実現にコミットすることによって実質利子率を引き下げることは可能である、ということである。)

Some would view this as a radical change in monetary policy. In some ways, it would be. Given how weak the economy is, however, a bit of radicalism may be called for. I am more comfortable having the Fed commit itself to modest inflation than having the federal government commit itself to a trillion dollars of new spending. The more we can rely on monetary rather than fiscal policy to return the economy to full employment and sustainable growth, the better off future generations of taxpayers will be.
(私の提案を金融政策の根本的な転換を意味するものだと受け取る向きもあるであろう。ある意味ではおそらくそうであろう。ただ、現在のような不安定な経済状況下においては、ラディカルな政策転換(radicalism)*1こそが求められているのではないだろうか。私個人としては財務省が1兆ドルの新規の財政支出にコミットするよりもFedが緩やかなインフレーションの実現にコミットする方に肩入れしたい気分だ。完全雇用と持続的な経済成長を実現する手段として金融政策に頼ることができるのであれば(=その分だけ財政出動の規模を抑制できるのであれば)、(税負担が軽減されるので)将来の納税者のためにもなるであろう。)

The abandonment of "price stability" would be the modern equivalent of Roosevelt's abandonment of the gold standard. Of all the things that Roosevelt did to get the economy out of the Depression, jettisoning the gold standard was the most successful. Today, monetary policy is fettered not by gold but by fear of inflation. Perhaps it is time is get over that fear, at least for a while. As Jim Tobin said in an earlier era, there are worse things than inflation, and we have them.
(「物価安定」の放棄(=「物価安定」という文言の使用を止めて政策目標として具体的にどのくらいのインフレ率を想定しているのか数字をもって語るように転換すること)はルーズベルト大統領による金本位制離脱の決断に匹敵するものであるといえるであろう。ルーズベルト大統領による政策のうちで、大不況に対して最も効果的であった政策は金本位制からの離脱であった。今日、金融政策はもはや金には束縛されていないが、しかしインフレの恐怖に束縛されているようである。ここしばらくの間はインフレの恐怖とやらから解放されてもいい頃合いなのではないだろうか。トービンがかつて語ったように、インフレーションよりも悪いもの、インフレーション以上に避けるべきものがあるのであり、我々が今直面しているのはまさにインフレーションよりも悪いものなのである。)


(追記)

The Fed has never been truly committed to stable prices. After all, inflation during the Volcker-Greenspan era averaged about 2 to 3 percent. The Fed could have lowered inflation to zero if it had wanted. Now that zero, or even below zero, is a possibility, the Fed needs to convince people that we are going back to the normal inflation rate of 2 to 3 percent.

ここの文章のつながりがよくわからなくて文と文とのつながりは一切無視して訳したんだけれども、言わんとしていることはたぶんこういうことなんだろう。
ボルカーやらグリーンスパンは「物価安定」ということで具体的に何%のインフレ率を念頭に置いていたのか明言しなかったけれども、政策運営の結果を見るにどうやら2〜3%のインフレ率が彼らの頭にある「物価安定」の意味であるらしいことがうかがえる。「物価安定」としか言ってないんだから0%のインフレ率が「物価安定」なんだと言い張ることもできたはずだけど、実際の政策運営の結果はそうなってない(=0%のインフレ率を目指して政策を運営していたようには見えない)。・・・「物価安定」ってのは2〜3%のインフレ率ってことなんだね。それならインフレ率が0%に迫らんとしている現在の状況は「物価安定」というFRBの政策目標の未達成を意味していることになるな。
「通常のインフレ率=2〜3%のインフレ率=「物価安定」=政策目標」の達成を目指しますって早く宣言しちゃいなよ。「物価安定」なんて回りくどい言い方なんかしてないで(そんな回りくどいことして誰が得するっていうの?*2)「2〜3%のインフレ率」目指しますって宣言しちゃいなよ。


(追々記)night_in_tunisiaさんの以下のブログエントリーもチェックしておくべきだと思うんだな。

●night_in_tunisia, “経済学者は何を提言しているか 一例”(徒然なる数学な日々, 2008年12月22日)

*1:ちょいとしたラディカリズム、だね。「a bit of」を見逃してた。

*2:誰とは言いませんけど約一名(?)得しそうな人(?)は知ってますけど。