choice blindness


●Lars Hall and Petter Johansson, “Choice blindness: You don't know what you want”(NewScientist, April 18, 2009)

We have been trying to answer this question using techniques from magic performances. Rather than playing tricks with alternatives presented to participants, we surreptitiously altered the outcomes of their choices, and recorded how they react. For example, in an early study we showed our volunteers pairs of pictures of faces and asked them to choose the most attractive. In some trials, immediately after they made their choice, we asked people to explain the reasons behind their choices.

Unknown to them, we sometimes used a double-card magic trick to covertly exchange one face for the other so they ended up with the face they did not choose. Common sense dictates that all of us would notice such a big change in the outcome of a choice. But the result showed that in 75 per cent of the trials our participants were blind to the mismatch, even offering "reasons" for their "choice".

We called this effect "choice blindness"・・・

Importantly, the effects of choice blindness go beyond snap judgements. Depending on what our volunteers say in response to the mismatched outcomes of choices (whether they give short or long explanations, give numerical rating or labelling, and so on) we found this interaction could change their future preferences to the extent that they come to prefer the previously rejected alternative. This gives us a rare glimpse into the complicated dynamics of self-feedback ("I chose this, I publicly said so, therefore I must like it"), which we suspect lies behind the formation of many everyday preferences.

In everyday decision-making we do see ourselves as connoisseurs of our selves, but like the wine buff or art critic, we often overstate what we know.


女性(あるいは男性)の顔がプリントされた2枚のカードを目の前で提示され、「あなたの好みの女性はどちらですか? 好みの女性がプリントされているカードを指さしてください」と尋ねられる。あなたが一方のカード(=あなた好みの女性がプリントされたカード)を指さすとカードは2枚ともにテーブルに裏返しの状態で伏せられ、あなたが選んだカード(=あなた好みの女性がプリントされたカード)だけが裏返しのまま手渡される*1。カードを手渡されたあなたは手元のカードを表に返し、なぜその女性を選んだのか理由を問われる。カードにプリントされた女性の顔を確認しつつあなたは答える。

「笑顔が似合う女性が好きなんです。あと目が大きい女性も。このカードの女性は私の理想そのものです」


この一連の過程にはちょっとしたトリックが仕掛けてある。あなたの目の前に2枚のカードを提示した人物は好みの異性のタイプを調査している変わり者の研究者ではなく老練なマジシャンであるという点である(カードを選ぶあなたは彼がマジシャンだということは知らされていない)。老練なマジシャンである彼の得意技はカードの瞬間移動、つまりは右にあるはずのカードを瞬時のうちに(あなたに気づかれることなく)左に移動させることである。
あなたが一方のカードを指さしたのを確認すると、マジシャンである彼はカードをテーブルに裏返した状態で置く。カードがテーブルに裏返して置かれた時点で既にカードは瞬間移動しており、右にあったはずのカードは左に、左にあったはずのカードは右にその位置を移動している。裏返しの状態であなたに手渡されたカードはあなたが選ばなかったカード、つまりはあなた好みではない女性がプリントされているカードであるが、あなたはカードが入れ替わっていようとは思いもしない。

あなたは手元のカードを表に返し、なぜその女性を選んだのか理由を問われる。カードにプリントされた女性の顔を確認しつつあなたは答える。

「笑顔が似合う女性が好きなんです。あと目が大きい女性も。このカードの女性は私の理想そのものです」


この実験の被験者の多くは「私が選んだカードはこちらではありません」と返答するのではなく(+カードにプリントされた顔を確認後もカードが入れ替っていることに気づくこともなく)、なぜその女性を選んだのか(なぜその女性が自分の好みなのか)その理由を並びたてる。「私がこのカードの女性を選んだのは私の好みだからです。何か文句でも」といった具合に。
手元にあるカードの女性を選んだ理由を滔々と語るあなたは自己を欺瞞していることになる。好みではない女性をあたかも好みの女性であるかのように(=選んでもいないものをさも選んだかのように)取り繕っているからである。しかしあなたはこの取り繕いを取り繕いだとは感じていないかもしれない。手元のカード(=自分が選んだのではないカード)にプリントされている女性が心の底から本当に好きだと感じているかもしれないし、これから先手元にあるカードの女性が好みであるという思いを抱いたまま生きていくことになるかもしれない。

この実験(これ以外にも著者らは他の実験を通じて似たような結果を得ている)は人の好みと人の行為との関係はそんなに単純なものではないことを示唆する。人は好きなことやモノを選ぶだけではなく(選好→行為)、選んだことやモノを好きになる(行為→選好)といった側面も持ち合わせているのかもしれない*2。我々人間は「語ることができる以上のことを知っている存在」(=暗黙知)であると同時に「知っている以上のことを語る存在」*3でもあり「語ることで(あるいは行為することを通じて)自らという存在(選好やらアイデンティティやら)を作り上げていく存在」*4ということになるのかもしれない。

*1:実際のところ手渡されたカードはあなたが選んだカードではない。この点については以下の説明を参照。

*2:好きだからこそ選ぶだけでなく、選んだからこそ好きになる。

*3:思ってもいないこと(自分が元来は好きでもなく、また知りもしないこと)を語る存在

*4:自分の好みにそぐわない発言や行為も実際に語り行為することで自分の好みとして内面化する(あるいは正当化する)存在