学者と実務家のものの見方の違い


レギュラー先生による新年最初のつぶやきです。ついさきほど朝方5時に起こされてつぶやきを聞かされた拝聴させていただきました。ちなみに、R. ハーディン(Russell Hardin)の『How do you know?』(第1章はこちらで読むことができる)という本を読みながらつぶやかれていました。

実務家の人々によるリフレ政策への見解(肯定論にしろ否定論にしろ)を判断する際に念頭に置いておくべきことは、彼らは失業率の低下や名目経済成長率の上昇等に関心を持っていないかもしれないということワンね。
不況の問題を論じる際には、みんな目的を共有している(例えば失業率の低下、経済成長率の改善等)とついつい思いがちワンけど、経済全体の効率性や資源の有効活用に気を払うのは経済学者くらいなもの(名目的には政治家や官僚も)ワン。実務家は実務家なりの目的に従って行動しているワン。
実務家の人に経済全体のことを念頭に置いて発言しろ、と迫るのは間違いワン。実務家は実務家なりのインセンティブに従って行動するんだワン。
自由貿易に対する障害(関税等)がなくならない理由の一つは、障害を課すことから得られる利益(=海外製品との競争から免れることによって生産者が得る利益)は集中している反面、そのコストは広く薄く分散している(=消費者が払わねばならないちょっと高めの商品価格)からというのがあげられるワン。
保護主義的施策によって個々の消費者が負担すべきコストは微々たるものワンから、個々の消費者が積極的に自由貿易を要請する運動を起こすインセンティブはほとんどないワンね。
その反対に、保護主義的施策によって海外企業との競争から守られる国内の生産者は手にする利益が大きいワンから保護主義的政策を求める運動を起こすインセンティブがあるワンね。結果として、保護主義的な政策が跋扈するということになるワン。
以上の保護主義的施策のように経済全体で見て非効率的な政策が実施される理由の一つは、経済全体のことを考慮して意見を述べるインセンティブをもつ主体がいないからワンね。
経済学者の役割の一つは、「経済全体のことを考慮して意見を述べるインセンティブをもつ主体がいない」状況を是正すること、つまりは、経済全体のことを考慮して意見を述べることなんだろうワンね。
経済学者と実務家とで様々な経済政策に関して意見が異なるとすれば、それは両者が抱く目的が違うからというのもあるのかもしれないワンね。経済学者は一応経済全体の効率性を念頭にあれこれ頭をめぐらせて発言するはずワンけど、実務家は自分の生活を支えるために頭をめぐらせ発言するはずワン。
同じ「経済」を対象としている以上、目的が違うからといって必ずしも異なるモデルを通じて世界を眺めることになるとは限らないだろうワンけど、ただ経済政策に関する意見の違いの一部は両者間の目的の違いを反映しているかもしれないワン。
ただ「実務家に経済全体のことを念頭に置いて発言しろ、と迫るのは間違い」だからといって、実務家のおかしな議論を放置していいというわけではないワンね。おかしな議論には徹底的に突っ込みを入れるべきワン。
実務家に対して「経済全体のことを念頭に置いて発言しろ」と迫るのと政治家や企業経営者らに対して「もっと倫理的にふるまうべきだ」と迫るのは似ているワンね。実務家(あるいは政治家や企業経営者)の直面するインセンティブ構造に変化がない限り、「経済全体のことを念頭に置いて発言しろ」(あるいは「もっと倫理的にふるまうべきだ」)との説教をしてもあまり効果はないと思うワン。

実務家の人々の経済に関するものの見方=モデルは、首尾一貫性だとかに基づくものではないかもしれないワンね。役に立つかどうかによって取捨選択されるんだろうワンね。役に立つ=実務家としての生活の維持に貢献する、ワンけど。
厄介なのは、必ずしも役に立つ=正しい、ではないことワンね。あるモデルに基づいて行動した結果儲けを得たとしても、そのことからモデルの正しさは保証されないワン。
例えば、ある投資家が特定財の需要曲線を間違って右上がりであると考えていたとするワン。この投資家は近い将来この財の供給が技術変化等の外生的なショックによって急に増加すると予想して現時点でこの財を買い貯めておくかもしれないワン。
需要曲線が右上がりだとすると供給曲線の右シフトは価格の上昇となって表れるワンから、この財の値上がり益の獲得を意図しているワンね。
それで実際にこの財の価格が上昇したとするワン。するとさっきの投資家は予想があたって値上がり益を手にすることになるワンけど、右上がりの需要曲線というものの見方が正しいとは限らないワン。
この財の価格が上昇した理由は、実際にはこの財の需要曲線は右下がりで、さらに予想とは反対に供給曲線が左シフトした結果かもしれないワン。
この投資家は、需要曲線に関するものの見方も間違っていて、財の供給の将来動向についての予測も間違ったワンけど、利益はしっかりと手にしているワン。
おそらくこの投資家は需要曲線は右上がりというものの見方を変えることなく保持し続けるだろうワンね。表面上は役に立ってるワンから。


レギュラー先生からもう一つだけ伝言をあずかっていますので最後に掲載させていただきます。
「あけましておめでとうワン。今年もよろしくお願いしますだワン。」


How Do You Know?: The Economics of Ordinary Knowledge

How Do You Know?: The Economics of Ordinary Knowledge