Friedman's Plucking Model


Economist's View(by Mark Thoma)を覗いたらフリードマンのPlucking Model関連の話題が取り上げられていた。

●“New Support for Friedman's Plucking Model”
http://economistsview.typepad.com/economistsview/2006/01/new_support_for.html


Plucking Modelによれば・・・

Pluckingブームの規模はそれ以前の景気下降の程度によっておおよそ推測可能である(=GDPの下落幅とその後のGDPの上昇幅の間に相関関係が見出しうる)一方で、不況の程度(≒GDPの下落幅)とそれ以前のブームの規模との間にはあまり関係がなさそうだ、という統計的なデータから鑑みるに、不況の程度は(先の図に描かれているように)板に張り付けられた糸を下にグイと引っ張る力の大きさに依存しているのであってそれ以前のブームが過熱的であればあるほど不況の深度も深くなるということは言えない、ということになろう。とすると、経済は長期的なトレンド線に沿って(トレンド線を挟んで)上下に対称的に循環するのではなくて、基本的には経済は完全雇用GDPないしは潜在GDP水準を維持しつつ進行する(トレンド線を超えて景気が過熱することはない、政策的な干渉がなければ)ものの、ネガティブな需要ショック(例えば行き過ぎた金融引締め)によってデフレギャップが発生→時間が経つにつれて潜在GDP水準に復帰→ネガティブな需要ショック→トレンド線へ復帰・・・を繰り返していると見たほうが妥当ではないであろうか*1

If further substantiated empirically," the lack of boom-bust correlation "would cast grave doubt on those theories that see as a source of a deep depression the excesses of the prior expansion [the Mises cycle theory is a clear example]." (さらなる実証的な証拠によってこのモデルの妥当性が支持されるならば、boom-bustの間には何の相関関係も存しないというこのモデルの結論は、不況の原因をそれ以前の過剰な景気拡張に求めるオーストリア流の景気循環理論の妥当性に重大な疑問を投げかけることになろう)(Roger W. Garrison、“Friedman's "PluckingModel"”より引用)

Garrisonはこのフリードマンの主張に反論して、Plucking Modelとオーストリア景気循環理論との接合を図ろうとする。フリードマンオーストリア学派の間ではブームの意味合いが異なりそれぞれブームという語で、フリードマン=bust後にトレンド線へと回帰する過程/オーストリア学派(特にミーゼス・ハイエク)=信用拡張によるmalinvestment、を表現している。信用拡張によるmalinvestmentは(経済の消費構造と適合的でない利子率環境を人為的な政策によって生み出した場合に)経済がトレンド線上に沿って進行している過程において生じるものであり、その歪みが徐々に蓄積しやがて調整局面を向かえるや、bustという結果を招くことになる(malinvestmentの調整過程におけるsecondary deflation)。フリードマンは経済がトレンド線上にあることをもって経済が正常に進行している証拠と見なすが、実は(信用拡張により人為的な景気拡張を生み出すことで)トレンド線上において既にその後のbustの種が蒔かれているとオーストリア学派は考えるわけである。政策(の失敗)による経済の撹乱がbustの一つの原因であるという点で両者に違いはない。

(追記)上に貼り付けたグラフをどこから引っ張ってきたか失念、・・・しちゃってましたが無事発見。

Roger W. Garrison、“Is Milton Friedman a Keynesian?”。Garrisonさんだったのね。

*1:ここに一枚の平らな板があるとしよう。それを斜めに傾けて横から眺めてみよう。グラフのトレンド線に見えなくない? 板の下には板に沿うかたちで1本の糸が這っている(糸の両端は誰かが持ってるんだろう)。板がトレンド線を表すものとすれば、糸は・・・そう、実際の景気循環の軌跡を表す。糸を下に引っ張ったりしない限りは糸は板の下に平行に這ったままであり、糸が板の下に平行に這っている状況=トレンド線に沿って経済が進行している状況を表していることになる。そこで適当な場所を選んで糸を下にグイッと引っ張ってみよう。糸はその地点において下にたるむことになるだろう(糸が板の下に沿ってピンと張っていたのであれば糸の両端を持ってくれている人もさぞかし痛い思いをしただろうけれども、そのことは置いておこう)。下に引っ張る力が強ければ強いほど糸の下へのたるみ(板と糸との乖離幅)も大きいであろう。