バーナンキ、出口戦略について語る


●Ben Bernanke, “The Fed’s Exit Strategy”(Wall Street Journal, July 21, 2009)

My colleagues and I believe that accommodative policies will likely be warranted for an extended period. At some point, however, as economic recovery takes hold, we will need to tighten monetary policy to prevent the emergence of an inflation problem down the road. The Federal Open Market Committee, which is responsible for setting U.S. monetary policy, has devoted considerable time to issues relating to an exit strategy. We are confident we have the necessary tools to withdraw policy accommodation, when that becomes appropriate, in a smooth and timely manner.
(同僚である多くの経済学者と同様に私自身も現在Fedが採用している金融緩和政策(=信用緩和政策)は今後も当面は継続されることになるであろうとの見通しに立っている。しかしながら、今後景気が堅調な回復を続ければ、ある時点でインフレの過熱を抑制するために金融引き締め政策へと転換する必要が将来的には出てくることになるであろう。アメリカの金融政策を決定する場であるFOMC連邦公開市場委員会)では多くの時間を割いてこの出口戦略の問題を論じてきた*1。我々Fedは、政策スタンスの転換に必要な手段を手にしており、それ故将来政策転換の必要が生じた際にはスムーズかつタイムリーなかたちで出口戦略を発動することができるであろうと確信している。)

上に引用したように「まだ出口戦略に乗り出すべき時ではない」との但し書きを付したうえで*2バーナンキFedが採り得る出口戦略を大別して以下の2つに分類する。

①準備預金*3に対する付利を現在の0.25%から引き上げる(paying interest on reserve balances)
②準備預金を減少させる手段の行使(taking various actions that reduce the stock of reserves)

さらに②は以下の4つの選択肢からなるという。

1.売り現先オペ(large-scale reverse repurchase agreements with financial market participants)
2.財務省による補完的資金調達プログラム(Supplementary Financing Program)を通じた市中資金の吸収*4
3.市中銀行に対して準備預金を当座預金勘定から定期預金勘定(bank funds held in term deposits at the Fed)へと預け替えることを推奨
4.売り切りオペ(selling a portion of its holdings of long-term securities into the open market)

①と②とを組み合わせることにより、短期金利の上昇ならびに貸付資金市場の逼迫といった金融引き締め効果が表れることになるであろう、と(Each of these policies would help to raise short-term interest rates and limit the growth of broad measures of money and credit, thereby tightening monetary policy.)*5


バーナンキがこの時期に「出口戦略」の中身を具体的に語ろうと考えた理由は何なのだろう? 「今こそ出口戦略に乗り出すべきだ」と考えているわけではないことは確かだ*6。おそらく「インフレに対処する手段は十分手にしていますよ」と手の内を明らかにすることでマーケットが余計なインフレ懸念を持たないよう牽制しようとしたのだろう。
インフレ懸念を抑制するにあたってはインフレをコントロールする手段を明示すること(=「我々Fedはインフレを抑制することができます」)に加えてインフレを低位安定化させようとの強い意志の裏付け(=「我々Fedは必ずインフレを抑制してみせます」)があればなおさらよいであろう。というわけで「出口戦略」をヨリ完璧なものとするために③として「インフレーションターゲッティングを採用する」とのリストを個人的には加えたいところ(この点に関してはミシュキンの論説も参考のこと)。

*1:Board of Governors of the Federal Reserve System, Monetary Policy Report to the Congress(July 21, 2009), 「Part 3: Monetary Policy: Recent Developments and Outlook」(“Monetary Policy as the Economy Recovers”)を参照のこと。

*2:記事の最後でも同様の但し書きがなされている。“Overall, the Federal Reserve has many effective tools to tighten monetary policy when the economic outlook requires us to do so. As my colleagues and I have stated, however, economic conditions are not likely to warrant tighter monetary policy for an extended period.”

*3:準備預金制度に基づき市中銀行中央銀行当座預金として積み立てる資金

*4:財務省が短期国債を発行し、その売却代金として受け取った資金をFedに預け入れる。結果として市中銀行保有する準備預金と財務省保有する中央銀行預け金とが振り替えられることになる。中央銀行の独立性を維持するという観点からすれば、あまりこの手段に頼るべきではない、との注意も。

*5:特に①を通じてフェデラルファンド市場の下限金利が上昇することになり、また②を通じて市中の流動性が吸収されることになる

*6:エントリーの最初で触れたようにバーナンキ自身が何度もこの点に関して念を押している。