ポーゼンへのインタビュー:「金利が低いのは嫌だ、と感じるかもしれませんが、私の母親のように退職後に貯蓄を投資に回して生計を立てている人々にとって、もし金利が現在のように低い水準にまで引き下げられていなかったとしたら状況はずっとずっと悪いものとなっていたことでしょう。」


●“Posen: Millions of Europeans face long slog”(CNNMoney, interviewd by Kim Clark, May 9, 2012)

個人的に興味をひかれた箇所を抜粋して訳してみました。

質問アメリカにおいてもそうですが、イギリスやヨーロッパにおいても、財政赤字の問題をめぐって激しい議論がたたかわされています。雇用を創出するために政府は支出(財政支出)を増やすべきなのか、それともギリシャの二の舞にならないように政府は支出(財政支出)を削減すべきなのか?、といった問題です。

ポーゼン:この問題を検討するにあたっては、(それぞれが置かれている状況に応じて;訳者挿入)各国を3つのカテゴリーに分けるのが有用でしょう。まず第1のカテゴリーに入るのはスペインのような国です。今回のような危機が生じていなければそれほど規模の大きな財政赤字を抱えるようなこともなかったような国*1がこのカテゴリーに属しています。第2のカテゴリーに入るのはギリシャ、あとはイタリアもある程度はそうかもしれません。こういった国々では元来より(危機が勃発する以前からずっと長きにわたって)政府支出が非常に高い水準にありましたが、今現在十分に税収を確保することができないでいるために巨額な財政赤字を抱える結果となっています。また、このカテゴリーに属する国では政府への不信が強く、巨大なブラックマーケットが存在しています。

最後に第3のカテゴリーに入るのは、アイルランド、おそらくはイギリス、そしてアメリカです。こういった国々では(第2のカテゴリーに属する国とは違って;訳者挿入)税収は確保できていますが、2000年代中頃のバブル期に政府支出が急増したために財政赤字を抱えることになりました。アメリカの場合は中でも戦費が急増しました。

第2のカテゴリーに属するギリシャのような国に関しては、誰もお金を貸してくれようとはしないでしょうから、今すぐにでも財政赤字の削減に向けて急ハンドルを切る(これまでとは大きく異なる行動をとる)必要があります。

一方で、アメリカやイギリス(第3のカテゴリーに属する国)はギリシャとは違います。現在マーケットはアメリカやイギリスに対して極めて低い金利でお金を貸し付けてくれています。アメリカやイギリスといった国に関しては財政赤字を削減するために今すぐにでも特別に何かしなければいけない、ということはないでしょう。今後も投資家がアメリカ政府やイギリス政府に対して低利での貸し付けを継続してくれるかどうかは、今年度や来年度の財政赤字がどうなるかにかかっているわけではなく、もっと長期的な財政収支のトレンドにかかっていることでしょう。特にアメリカに関してですが、議論の焦点は(財政赤字一般ではなく;訳者挿入)この先政府がカバーできる以上のスピードで増えていくと予想されているヘルスケア(医療保険)支出の問題に置かれるべきだと個人的には考えています。

質問:世界各国の中央銀行金利を極限にまで引き下げています。この事実に対して貯蓄家(Savers)の口から次のような不平が語られています。「他人の無責任な浪費(fiscal irresponsibility)を支えるためになんで我々貯蓄家がその代価を支払わなきゃならんのだ」、と。

ポーゼン:政策当局者の一人としてこれまでに数多くの不平・不満を投げつけられてきましたが、私にとって最も気がかりであった不平というのがまさにそれです。私の母親も仕事を退職して(これまでに積み立ててきた貯蓄を基に日々の生活を送って;訳者挿入)いますが、賢明にも貯蓄の大半を政府債券に投資しています。政府債券への投資から得られる金利収入は非常に少ない(政府債券の金利は非常に低い)のが現状です。

質問:お母様から直接文句を言われたことがありますか?

ポーゼン:いいえ。この件で母から文句を言われたことはありません。おそらく「今我々が実施している低金利政策は正しい政策だ」と納得させることに成功したからでしょう。金利が低いのは嫌だ、と感じるかもしれませんが、私の母親のように退職後に貯蓄を投資に回して生計を立てている人々にとって、もし金利が現在のように低い水準にまで引き下げられていなかったとしたら状況はずっとずっと悪いものとなっていたことでしょう。

というのも、もし中央銀行が金融機関に対して緊急融資を行わなかったり、短期金利を積極的に引き下げることがなかったとしたら、おそらく銀行(民間の銀行)が倒産したり、年金基金が支払い不能(insolvent)に追い込まれたり、という事態になっていたでしょうし、そのために投資に回した貯蓄(資産)はパアになっていたと思われるからです。

また、中央銀行は経済全体のことを念頭に置いて政策を決定すべき立場にある、という点にも留意しないといけません。疑いもなく、我々がこれまでに実施してきた政策(金利の引き下げ含む)のおかげで物価の安定や失業の減少がもたらされることになりました。そして今や経済成長も回復軌道に乗りつつありますが、これもまた我々の政策のおかげであることは疑いがありません。

*1:訳注;これらの国で財政赤字が増加した原因は、今回の危機に対処するために、つまりは実体経済の安定化を図るために、政府支出を増やしたためか減税を実施したためか(あるいは同時にどちらも行ったため)であった(=景気安定化を目的として裁量的な財政政策が実施されたため)、ということ。あるいは、これらの国で財政赤字が増加した原因は、危機の影響で景気が落ち込み、それを受けて税収が減少したり失業給付等の支出が増加したためであった、ということ。