「尾の振り方」を学ぶためイギリスへ向かう+クルーグマンインタビュー


ハワイで長いバカンスを満喫されていたご様子のレギュラー先生が「リフレ摘発」のニュースに驚いて一時帰国。勘違いだったとわかるや、すぐさまイギリスに旅立たれました。イングランド銀行の新総裁に就任予定のカーニーに「尾の振り方」を学ぶためだそうです。短時間でしたが、久しぶりに先生とお話することができましたので、その時の会話の様子を記憶している範囲で再現します。


○「尾が犬を振る」

"The tail wages the dog"っていう表現があるワンね。「尾が犬を振る」という意味ワンね。金融政策の文脈では、政策短期金利(尾)の上げ下げが実体経済(犬)に影響を与える、ということを指すワンね。

"The tail wages the dog"っていうのはトービンが好んで使う表現ワンね。例えば、この論文のpp.19にあるワンねつ

●James Tobin, “Monetary Policy: Recent Theory and Practice(pdf)”

「尾が犬を振る」という表現は、政策短期金利の操作を通じた金融政策が実体経済にどうして影響を及ぼすことになるのか、その摩訶不思議さを表現しているワンね。

民間銀行の間でなされるごく短期での貸し借りに課される金利(無担保翌日物金利)の上げ下げがどうして一般家計の消費とか企業の投資なんかにまで影響を与えることになるの? 不思議な話だね。・・・という思いが表現されているワンね。

先のトービンの論文では日本経済のことも話題になってるワンね。短期金利が実質的にゼロ%にまで下がった状況を指してトービンは「流動性の罠」と表現しているワンけど、尾を振る余地がない状況とも言えるワンね。

尾を振る余地がない状況で中央銀行に何ができるか、という話(pp.19〜)ワンね。何もできないよ・・・と白旗を振るのではなく、そういう状況だからこそ革新的な発想と大胆な行動が必要だ、とトービンは語っているワンね。

具体的には、満期が長めの資産を買うもよし。かつて日本銀行は株式市場に介入したことがあるけど、今再びそういった大胆な行動(=株式を買い入れの対象とする)に出るのもよし。・・・とトービンは語っているワンね。

そして、これが面白いワンけど、革新的な発想に立って、物価連動国債を買い入れるのもありかもしれない、と語っているワンね。物価連動国債は普通の債券と比べると財やサービスに近くて、それゆえ物価連動国債の買い入れは大きな景気刺激効果を持つかもしれない、と語られているワンね。

尾を振って経済を左右する術を学ぶために・・・イギリスにでも行ってくるワン。この場合の「尾」は政策短期金利という意味ではなく、文字通り私のこの「尾」のことワンね。カーニーならそのヒントを与えてくれそうな気がするワンね。

非伝統的な金融政策の道具箱の中身が空っぽになってしまう最悪の事態を想定しておく必要があるワンね。「チャック・ノリスの睨み」があれば十分だろうワンけど、彼って女たらしワンからね。肝心な時にデートで忙しいなんて恐れがあるワンね。万一の事態に備えて「尾の振り」を鍛えておくワン。

グズグズしていられないワンね。出発ワン。カーニーから色々盗んでくるワン。


○イギリスの金融政策界隈の下調べ

まずは下調べが必要ワンね。情報収集ワン。

弾力的なインフレ目標、現時点で最も効果的な金融政策の枠組み=カーニー次期英中銀総裁(ロイター、2013年2月8日)

弾力的なインフレ目標、カナダと英国にとり最良の政策アプローチ=カナダ中銀総裁(ロイター、2013年2月13日)

●Svenja O’Donnell & Simon Kennedy, “Carney Backs BOE Evolution Over Revolution in Favoring Guidance”(Bloomberg, February 8, 2013)

イギリス議会の公聴会でのカーニーの受け答えはこれワンね。つ 

Dr Mark Carney's answers to the Treasury Committee's questionnaire published


カーニー以外にも「ヘリコプター・ベン」ならぬ「ヘリコプター・アデール」っていう話題もあるワンね。日本の金融庁にあたるFSAの長官アデール・ターナーがヘリコプターマネー提案を行っているとかいう話ワンね。

「ヘリコプター・アデール」の話題はこれワンね。つ

●Anatole Kaletsky, “A breakthrough speech on monetary policy”(Reuters, February 7, 2013)

ターナーさんは昔から似たような提案をしていたみたいワンね。かつてドーアが紹介していたワンね。つ 

ロナルド・ドーア声なき声になったデフレ退治論」(RIETI ポリシーディスカッション, 2003年12月9日)


イギリスにはTim Congdonもいたワンね。Congdonは「イギリスのマネタリスト」ワンね。

Articles By Tim CongdonStandpoint.)

スコット・サムナーがTim Congdonの著書 『Money in a Free Society』の書評をしてるワンね。つ

●Scott Sumner, “Money’s Masterminds”(The American Conservative, January 5, 2012)


イギリスのマーケット・マネタリストと言えば、Britmouseがいるワンね。今後は彼のブログも細かくチェックするワン。つ

●Britmouse, uneconomical〜Random comments on UK economics


忙しいイギリス滞在になりそうワン。


クルーグマンインタビュー

そう言えば、イギリス到着後のことで私は視聴できなかったワンけど、2月12日に放送されたNHKのBizプラスクルーグマンがインタビューに答えていたみたいワンね。

飯田香織キャスターがインタビューの概要の文字起こしをブログにアップしてくれているワンね。ありがたいワンね。

そのうちどなたかが全部訳してくださると思うワンけど、一部だけ突貫訳を試みてみるワン(追記;anomalocaris89さんがインタビューをすべて訳してくださってるワン(2013年2月22日))。

■白川総裁が3月に退任することになりました。後任の総裁に必要な資質とは何だと思いますか?

クルーグマン:そうですね。「これぞセントラルバンカー」という感じではない人物がふさわしいかもしれませんね。具体的に誰となると私にはわかりませんが、そうですね、「物価安定(訳注;あるいはインフレ退治)は1970年代の戦いだ」と大っぴらに語るのも厭わない人物ということになるでしょうね。物価安定というのは現在私たちが直面している問題ではありません。現在私たちは幾ばくかのインフレを必要としているのです。金融緩和策が必要なのであり、景気回復の妨げになるほどまでに日銀の独立性を守ることに神経質になる必要はないのです。そうですね・・・、可能であればイングランド銀行総裁に就任予定のカーニー氏を新総裁に迎えるべきだったのかもしれないですね。正真正銘のアウトサイダーを総裁に迎えて大きな変化を引き起こすのがいいのかもしれません。それがだめでも、「今は置かれている状況が違うのだ。関心の置きどころを変える必要があるのだ。」とおおっぴらに語る気のある人物ということになるでしょうね。」

■日銀の独立性が脅かされたという指摘についてはどう考えます?

クルーグマン;そうですね、日銀の独立性が弱められつつあるのは事実だと思います。政策スタンスを変えるように日銀は多かれ少なかれ政府から圧力を受けています。でも、それはいいことじゃないでしょうか。中央銀行の独立性というのは侵してはならない神聖な原則のようなものではありません。中央銀行の独立性というのは、インフレーションが大きな問題だった時代にインフレを抑制するために発展してきた戦略の一つなのです。そして、現在の状況においては中央銀行の独立性こそが問題の一つなのだ、ということが判明してきました。過去の歴史を振り返ってみますと、中央銀行の独立性を掘り崩すことこそがまさに必要とされていたようなケースを見出すことができるでしょう。

例えば、1930年代のアメリカのケースだと、金本位制から離脱して、Fedの意思に関わらず(Fedが好むと好まざるとにかかわらず)Fedが緩和モードに移行するよう強いることが非常に重要なポイントでした。

1930年代の日本における高橋是清の例なんかに目をやると、(当時の状況においては;訳者挿入)中央銀行の独立性を取り除くことは実のところ好ましいことでした。中央銀行の独立性が損なわれるとまずいことになる、という発想は間違っています。状況が違うのです。」

最後は「状況が違うのです」というよりは「置かれた状況の違いを認識する必要があるのです」って感じのほうが適当かもしれないワンね。中央銀行の独立性が問題の解決策の一つとなることもあれば、問題を解決する上での障害となる(中銀の独立性自体が問題の一部となる)こともあるということワンね。


(追記)

○「通貨戦争」

次期FRB議長は・・・スタンレー・フィッシャー!! なんてこともあるのかもしれないワンね。つ 

●Dylan Matthews, “Stan Fischer saved Israel’s economy. Can he save America’s?”(Wonkblog, February 15, 2013)

フィッシャーは今年の6月いっぱいでイスラエル中銀総裁を辞任するみたいワンね。それにしても他にもイェレンだとかクリスティーナ・ローマーだとか議長候補が豪華で羨ましい限りワンね。

イスラエルはおよそ25%の為替の減価(シケル(イスラエルの通貨)がドルに対しておよそ25%減価)でこの度の金融危機を乗り切ったらしいワンけど、記事にもあるように小国ならではの方法ワンね。他の国からあんまり不満が出ないワンからね。小国の強みを生かした方法とも言えるワンけどね。

この記事に関してはクルーグマンもフォローしているワンね(追記;この記事もanomalocaris89さんが訳してくださってるワン)。つ

●Paul Krugman, “Stanley and the Crazies”(The Conscience of Liberal, February 17, 2013)


イスラエルのような小国との間の為替レートではなく円ドルとかの為替レートの話になるとすぐに「通貨戦争だ!!」ってなるワンからね。クルーグマンも「通貨戦争をめぐる混乱」の中で語っているワンけど、「現在我々が恐れなければならない唯一のものは恐れそのものなのだ。」って話ワンよね。


「通貨戦争」の話題で言えば、Matthew O'brienのこの記事もよかったワンね。つ

●Matthew O'brien, “Currency Wars, What Are They Good For? Absolutely Ending Depressions”(The Atlantic, February 5, 2013)

締めの言葉がクルーグマンと似ているワンね。「我々が恐れねばならない唯一のものは通貨戦争の恐れそのものなのだ。この戦い(通貨戦争)で犠牲になるのはせいぜい不況くらいのものだ。」

この戦い(通貨戦争)で犠牲になるのはせいぜい不況くらいのものだ=通貨戦争でどの国も景気が上向く、ということワンね。


エコノミスト誌のこの記事もよかったワンね。アイケングリーンの最新論文(pdf)(追記;このアイケングリーン論文も訳されてるワンね。道草で227thdayさんが訳出してくださってるワン)が広範に参照されてるワンね。つ

●Greg Ip, “Positive-sum currency wars”(The Economist, February 14, 2013)