「ウッドフォード・ピリオド 〜迎え酒にバーボンを〜」


●Bill C, “The 'Woodford Period': A Bourbon for Bernanke?”(Twenty-Cent Paradigms, February 21, 2013)

つい先日、セントルイス連銀総裁であるジェームス・ブラード(James Bullard)が「現状の金融政策のスタンス」をテーマに講演を行ったが、その内容を要約したニュースリリースによると、ブラードは講演で次のように語ったとのことである。

彼(ブラード)は今回の講演で次のように述べている。「セントルイス連銀の予測によると、失業率が閾値(threshold)*1である6.5%に達するのは2014年6月のことになると見込まれている」。しかしながら、彼は次のようにも指摘している。セントルイス連銀が予測する今後の失業率の推移をテイラー・ルール(Taylor(1999))にあてはめるとFF金利は2013年8月の段階で引き上げられるべきとの結果が得られる、と。すなわち、「閾値に達するまではFF金利を(現状のほぼ)ゼロ%に据え置くとのFOMCの決定は、通常であればFOMCFF金利を引き上げるはずの時点よりも長めにFF金利をゼロ%に据え置くことを意味している。つまり、FOMCによる閾値の決定は「ウッドフォード・ピリオド」(“Woodford period”)の設定を意味するものと見なすことができる。」

1950年代〜60年代にFRB議長を務めたウィリアム・マチェスニー・マーティン(William McChesney Martin)はかつて次のように語った。Fedの仕事は「パーティーが盛り上がっている最中に(お酒の入った)パンチボールを片付けることにある」、と。このマーティン・ルールから派生する(ブラードが語るところの)新しいコロラリー(corollary)は次のようになるだろうか。「Fedの仕事は、景気後退が終わった後もしばらくはゆっくりとバーボンをちびちびとやる暇を与えることにある」、と。「景気後退というのは金融危機に端を発する二日酔いのようなものだ」との意見があるが、仮にそうだとすればそれはおそらく迎え酒*2のようなものなのだろう*3

ニュースリリースの続きはこうなっている。

2013年8月から2014年6月までの期間が「ウッドフォード・ピリオド」(“Woodford period”)−ここで「ウッドフォード」というのはコロンビア大学の経済学者であるマイケル・ウッドフォード(Michael Woodford)を指している−ということになるだろう。ブラードは次のように付け加えている。「経済学界で広く受け入れられている理論によれば、ウッドフォード・ピリオドを設けて通常よりも長めにFF金利をゼロ%に据え置くことは、名目金利がゼロ下限制約に直面している状況において一層大きな景気刺激効果を持つとともに、おそらくは最適な金融政策でもある。」

おっと。「ウッドフォード」というのはInterest and Prices(『利子と物価』)の著者のことであって、バーボンウイスキーであるウッドフォードリザーブのことではないらしい。

しかし、やはりウッドフォードリザーブのことを指すようにした方がよかったかもしれない。というのも、バーボンを購入するためにFedが貨幣を刷ると蒸留所が予想したとしたら、それを見越して(メーカーズマークも含めた各メーカーの蒸留所が)バーボンの蒸留に乗り出す*4かもしれないからだ。ん〜〜〜。


【訳者による追加】


(出典)James Bullard, “Perspectives on the Current Stance of Monetary Policy(pdf)”(February 21, 2013)のpp.25より再掲

*1:訳注;ゼロ金利解除の基準となる失業率の値。2012年12月に開催されたFOMCで、失業率が6.5%を下回るかインフレ率が2.5%を超えない(+インフレ期待が安定している)限りは政策短期金利であるFF金利を現状のほぼゼロ%に据え置くことが決定された。

*2:訳注;二日酔いを解消するためにお酒を飲むこと

*3:訳注;おそらくこの文章は、景気後退に関する「二日酔い理論」を揶揄したものないし逆手にとったものと思われる。「二日酔い理論」によると、酒の飲み過ぎが悪いのだから(それ以前の浪費が現在の景気後退の原因なのだから)お酒をはじめとした贅沢は控えて堅実な生活を過ごしなさい→民間・政府両者に対する緊縮の勧め、といった結論が引き出されることになるが、ここでは「いや、二日酔いには迎え酒で対処すればいいのでは? ウッドフォード・ピリオドを設けて金融緩和(ゼロ金利)をちょっと長めに継続すればよい」との意味が込められているのだと思われる。景気後退の「二日酔い理論」については、例えば以下を参照のこと。 ポール・クルーグマン(1999)「日本の長引く不況は、バブル期の行きすぎのせいではない」/ Paul Krugman(1998), “The Hangover Theory ;Are recessions the inevitable payback for good times?

*4:訳注;次の記事も参照のこと。「バーボン「メーカーズマーク」、アルコール度数引き下げを撤回−一連の騒動に「心からお詫び」と経営者(タイム)