世界同時不況の背後にある無視せざる要因〜石油価格高騰の原因とそのマクロ経済的影響〜


●James Hamilton, “Causes and Consequences of the Oil Shock of 2007-08(pdf)”(Brookings Papers on Economic Activity, Conference draft, Spring 2009)

Abstract
This paper explores similarities and differences between the run-up of oil prices in 2007-08 and earlier oil price shocks, looking at what caused the price increase and what effects it had on the economy. Whereas historical oil price shocks were primarily caused by physical disruptions of supply, the price run-up of 2007-08 was caused by strong demand confronting stagnating world production. Although the causes were different, the consequences for the economy appear to have been very similar to those observed in earlier episodes, with significant effects on overall consumption spending and purchases of domestic automobiles in particular. In the absence of those declines, it is unlikely that we would have characterized the period 2007:Q4 to 2008:Q3 as one of economic recession for the U.S. The experience of 2007-08 should thus be added to the list of recessions to which oil prices appear to have made a material contribution.


アメリカのサブプライムショックに端を発する世界同時不況」との表現をよく耳にする。このように表現することの背後にはおそらく「金融危機としての世界同時不況」との認識が控えているのであろう。不況の反転やデフレの回避を目的とする経済安定化政策と並んで金融システム改革が解決すべき優先課題として広く議論されているのも「金融危機としての世界同時不況」との認識あってこそであろう。今般の不況が金融危機としての側面を備えていることは確かである。この点を否定する者はおそらくいないであろう。
ところで1年前の今頃*1世間を騒がせていた経済問題が何であったかをご記憶であろうか。1年前世間の注目は原材料価格の高騰、特に石油価格高騰の問題に注がれていた(「すわっ! スタグフレーションの再来か」との声もよく耳にしたものである)。経済学者の間でもファンダメンタルズ説や投機説、Fedによる行き過ぎた金融緩和説など石油価格高騰の原因をめぐって激しい論戦が繰り広げられ、また石油(燃油)価格急騰を背景とした漁業関係者らの窮状とその対策がニュースでも盛んに論じられていたものである。しかしながら、その後の石油価格の急落ならびにサブプライムローンの問題(+住宅価格の下落)が明らかになるにつれて石油価格高騰の問題は世間から忘れ去れていくことになった。
金融危機としての世界同時不況」に苦しむ2009年現在、「石油価格高騰の原因は何だったのか?」と問うことにどれだけの意味があるであろうか? 大いにあるというのが冒頭でリンクを貼ったハミルトン(James Hamilton)の論文の内容である(論文のポイントはハミルトン自身がEconbrowser上でまとめている。例えばこちらを参照)。
「石油価格高騰の原因は何だったのか?」と問うことになぜ意味があるのか? その理由は石油価格の高騰は今般の世界同時不況の引き金の一つ、それも無視できないほどのインパクトを持つ要因の一つ(世界同時不況を引き起こした唯一の要因、というわけではないが)であると考えられるからである。石油価格の高騰がマクロ経済的な不況を引き起こし得る原因の一つだとすれば、石油価格高騰を引き起こした要因に対処することは環境対策というにとどまらず景気対策という側面も備えているということになろう。もし石油価格の高騰の多くの部分がファンダメンタルズの面から説明できるのであるとすれば(この点に関するハミルトンの主張に関してはこちらを参照)、石油価格高騰への対処は長期的な性格のものとなるであろうし、石油価格高騰の背後にあるファンダメンタルズの問題を放置することは将来の経済不況の原因となりかねない種の一つを放置することを意味することにもなろう。将来の経済不況を予防するという目的からすれば、石油価格高騰の背後にある要因に対処することは金融システム改革とならんで優先的に取り組むべき課題であるといえるのかもしれない。

*1:正確には夏頃か。石油価格は7〜8月にかけて1バレル当たり150ドルに迫らんとしていた。