ポーゼン、インフレ目標の将来について語る


以前本ブログでも取り上げたポーゼンの議会証言のことをレギュラー先生に話したら、「そう言えば、ポーゼンがインフレ目標についてインタビューに答えているのを見かけたことがあるワンね。」とのお言葉。その後「かなり前に読んだので細部までは記憶してないワンけど、以下のようなことを語っていたはずワン」と断ったうえで、ポーゼンインタビューの要点を滔々と語り始められた。以下はそのレギュラー先生のつぶやきをまとめたものである。

ポーゼンへのインタビューは以下ワンね。「インフレ目標の将来」。Challenge誌の2008年July−August号ワン。

●“The Future of Inflation Targeting; Interview with Adam Posen”(PDF)<http://www.challengemagazine.com/extra/005_022.pdf

ただ論点が多岐にわたっていてとてもすべてをカバーする余裕もないので私が特に興味を惹かれた点に限定してつぶやくワン。

インフレ期待を安定化させることの重要性、そしてインフレ期待を安定化させるためには名目的なアンカー(錨)が必要であること、を説いているワン。これが一番のポイントワンね。

インフレ目標というのは名目的なアンカーを提供する一つの手段なんだワン。インフレ目標は、中央銀行に目標とするインフレ率を明示化させ+その目標の達成が信頼に足る約束であるよう仕組みを備えることで、人々が将来のインフレ率がどうなりそうか予想する時のアンカー、目安を提供することになると。

一読すると何となくポーゼンがインフレ目標に否定的な感じ、否定というよりは諸手を挙げては肯定していないような感じに見えるだろうけれども、その理由はインフレ期待を安定化するための方法にはインフレ目標以外にもいくつかあると考えているからだワン。

インフレ期待を安定化させる方法に関してonlyに近い立場(=インフレ目標を採用するしかない)からone of themの立場(=インフレ目標は一つの手段ではある)へと移行したということだワンね。だからといってインフレ目標を拒絶しているわけではないワンね。

「インフレ期待を安定化するための方法にはインフレ目標以外にもいくつかある」という点は、インタビュー後半の合理的期待形成か適応的期待形成か、という点と関連してくるんだワンね。

インフレ目標のようなかたちで中銀の政策目標を明示化すること=政策の透明性を高めることは、人が将来のインフレ率を予測するにあたってフォワードルッキングに物を見る側面に応じた対応だワンね。

でも人は過去の経験も重視する=過去の実際のインフレ率に基づいて将来のインフレ率を予測する=適応的に期待を形成する側面もあるワンね。だからインフレ目標を明示的に採用せずとも、実際のインフレ率を低位安定化させることでインフレ期待を安定化させることも可能だワンね。

「実際のインフレ率を低位安定化させることでインフレ期待を安定化させ」た例としてはヴォルカー連銀の例が挙げられてるワンね。現在のFRBは明示的にはインタゲを導入してないけど、インフレ期待がそこそこ安定しているのはヴォルカー連銀の経験に応じて人々が適応的に期待形成しているからだワン。

ただヴォルカー連銀も「FRBは本気でインフレ率の低位安定化に臨むつもりだ」ということを人々に信じさせることに成功したからこそ実際にインフレ率の低位安定化に成功した側面もあるので、ある意味でフォワードルッキングな面への働きかけもあったんだワン。

別の論点に移ると、インフレ目標は中銀の手を縛るものではなく、むしろフレキシビリティを与えるものだ、とも言ってるワン。これはインフレ目標は何が何でも目標の達成を要求する厳密なルールではないということも含んではいるんだろうけども、インフレ期待の安定化が実現されることで中銀が短期的な景気安定化のためにアグレッシブに対応することを可能にするから、という意味なんだワン。

インフレ期待が安定しているために、経済全体に対してネガティブなショックがあってもインフレの加速を恐れることなくアグレッシブに利子率の引き下げに乗り出すことができるし、また石油ショックのようなコストプッシュショックがあっても即座に金利を引き上げて不況という痛みを経験する必要もないと。

インフレ期待の安定化というのは長期的な経済計画を立てやすくなる等によって長期的な経済成長にプラスに働くだけでなく、中銀に対して短期的な景気安定化のための余地を大きく残すことで景気循環の平準化ということにもプラスに働くということだワン。

↑はかつてバーナンキもスピーチで語っていたことだワン。バーナンキのスピーチは以下だワンね。ポーゼンのインタビューによると、ミシュキンも同様のことをスピーチで語っていたようだワンね。

●Ben S. Bernanke, ”The Benefits of Price Stability”<http://www.federalreserve.gov/newsevents/speech/bernanke20060224a.htm

インフレ期待が安定化していることで中銀が果断に短期的な景気落ち込みに対応できるのは、さっきもつぶやいたワンけど人が適応的に期待を形成する側面もあるからだワンね。

かつての低位かつ安定した実際のインフレ率に引きずられる形で将来のインフレ率の予測をするから、中銀が一時的に金融緩和モードになっても(ポーゼンはこういうかたちでは表現していないけれども、テイラールールで見て緩和し過ぎということになっても)即座にはインフレ期待は上昇しないんだワンね。

他にも、インフレ目標でなぜ2%をターゲットにするのか、例えば6%ではいけないのか、とか、マクロ経済の安定化と長期的な生産性上昇との関係(特に90年代の好調なアメリカ経済を事例に)とか、いっぱい面白い論点が語られてるワン。時間がある時にでも一読することをお薦めするワン。

ポーゼンのインタビューの件で大事なことを指摘するの忘れてたワン。インフレ目標でターゲットとすべきインフレ率は1ケタ台であればどの水準でもいいかもしれないけれど、ただデフレに陥る危険性を回避するため+物価指数に含まれる上方バイアス、ということを考えると、ある程度余裕をもったプラスの水準でなきゃいけないと語っているワン。インフレ率ゼロ%ターゲットはだめということワンね。デフレの弊害もしっかり指摘しているワン。