Douglas Irwin 「大不況の予見者? 〜戦間期の金本位制に対するカッセルの分析〜」


●Douglas A. Irwin(2011), “Anticipating the Great Depression? Gustav Cassel’s Analysis of the Interwar Gold Standard(pdf)”

<要約>
大不況(Great Depression)に対する知的な反応(当時の経済学者が大不況に対してどのような反応を見せたか)は、フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek)vs ジョン・メイナード・ケインズJohn Maynard Keynes)との間のバトルというかたちで描かれがちである。しかしながら、大不況の解釈に関してはオーストリアンのそれ(=解釈)もケインジアンのそれ(=解釈)もどちらも不完全である。オーストリアンは一国がどのようにして不況に陥る可能性があるか(答え;投資ブームに続く崩壊)という点に対してはそれなりの説明を提供できるものの、一国がどのようにして不況から脱出し得るか(答え;清算(liquidation)プロセス)という点に対しては満足のいく説明を提供することができないでいた。反対に、ケインジアンは一国がどのようにして不況から脱出し得るか(答え;公的な事業に対する政府支出)という点に対してはそれなりの説明を提供できるものの、一国がどのようにして不況に陥り得るか(答え;アニマル・スピリッツ)という点に対しては満足のいく説明を提供することができないでいた。当時、マネタリーな観点から経済問題にアプローチした経済学者らが存在したものの、ハイエクケインズとは対照的に、彼らの存在はこれまで無視されてきた。その中でも代表的な存在はスウェーデンの経済学者グスタフ・カッセル(Gustav Cassel)である。カッセルは、1920年という早い段階で、金本位制の管理に不備が生じる(mismanagement)ことで深刻な不況がもたらされる可能性があるとの警告を発していた。カッセルは、どのようにして(金本位制の管理不備を原因として)深刻な不況が発生し得るかをあらかじめ説明していたばかりではなく、彼のその説明は今日の専門家による大不況の発生プロセスに関する説明を先取りしてもいるのである。ケインズハイエクとは異なり、カッセルは一国がどのようにして不況に陥り得るか(答え;金融引き締めを原因としたデフレーション)という点と一国がどのようにして不況から脱出し得るか(答え;金融緩和)という点の両者に対して説明を提供していたのである。

要約だけ訳してみた(ところどころこちら側で勝手に手を加えている箇所もありますが)。昔はこんな感じのスタイルでブログやってましたねw


(追記)

ダグラス・アーウィンといえば、1937〜38年のアメリカの景気停滞の原因を分析したアーウィンのVOX論説の訳を「道草」にこっそりと投稿していたり。参考までにどうぞ。

●“「1937-38年の景気停滞をもたらした原因は何か?」 by Douglas Irwin”(道草、2011年11月6日)


アーウィンといえば貿易政策の専門家としても有名ですが、つい最近その話題に関する新著が出版された模様です(私は未読)。以下の本。

Trade Policy Disaster: Lessons from the 1930s (Ohlin Lectures)

Trade Policy Disaster: Lessons from the 1930s (Ohlin Lectures)