ストーリーを疑う;ストーリーとうまく付き合う方法(要点まとめ)



タイラー・コーエンが2009年11月5日に行ったTED講演。講演の主要なテーマは「ストーリー(あるいはストーリーを通じて思考すること)の危険性」。以下のブログエントリーで講演内容が文字に起こされているので(ただし英語)興味のある向きは参照されたし。

Tyler Cowen on StoriesLess Wrong, December 17, 2011)


講演内容の一部について箇条書きでまとめておこう。後日もう少しきちんとした形で内容を紹介することになるかもしれない。

◎ストーリーが抱える問題点

1.あまりにもシンプルすぎる;ストーリーは、容易に理解でき、容易に他者に伝えることができ、容易に思い出すことができる程度にシンプルである必要がある
 −「善vs悪」といったわかりやすい枠組みで問題を捉える
 −どのような出来事も意図を持った人間−特に、悪意を持った人々の共謀−によって引き起こされている、と想定してしまう;陰謀論的発想
  自生的秩序−人間の行為の産物ではあるが人間の意図の産物ではないような現象や結果−といった発想はストーリーとはなじまない
 −“get tough with〜(〜に対して厳正に対処せよ)”;対決すべき具体的な相手を想定することを通じて問題解決に臨む態度
2.ストーリーは時に相反する複数の機能を果たす
 −行動の動機づけとなると同時に自己欺瞞の源泉になる恐れも
 −行動経済学関連の一般向けの書籍(あるいは、人間が抱える認知バイアスを取り上げている書籍)が果たしている役割;一種のお守り(talisman)としての役割
  本の中で取り上げられている認知バイアスから自由になることと引き換えにその他の(本の中では取り上げられていない)認知バイアスに囚われやすくなってしまう可能性 
3.市場で(広告などのかたちをとって)広く流布したり政治家が声高に語るようなストーリーは一定のバイアスを抱えている可能性が高い
 −人々の注目を集めるようなストーリーを語ることを通じて自らの利益を追求する企業家や政治家

◎ストーリーとうまく付き合う方法

○ストーリーを通じて思考することは人間の本来的なあり方
 −自らの行為を理解し、自らの人生に意味付けをし、他者とのつながりを形成する上でストーリーは欠かせない
 =>ストーリーを通じて思考することには危険性が伴うからといってストーリーなしで生きていく道を探るのではなく、ストーリーの危険性を理解しつつストーリーとうまく付き合っていく方法を見出す必要がある

○ストーリーとmessiness(ごちゃごちゃしてとっ散らかっている様)との代替
 −ある特定の話題や領域(例.宗教問題等)に関して過度にドグマティックになる(ストーリーを通じて思考する)ことと引き換えに、それ以外の話題や領域に関してよりmessyでいられる(ストーリーに囚われない思考をする)余地を作る;「教条主義(dogmatism)に関するポートフォリオ理論」


(追記)コーエンの物語論についてはもちろん以下の本も参照のこと(講演内容と被る部分多し)。

Create Your Own Economy: The Path to Prosperity in a Disordered World

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フレーミング「自分の経済学」で幸福を切りとる

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